藤沢さんは、急に僕に冷たい態度を取るようになった。僕に対して人のいい笑顔は消えて氷の視線で見られるのは辛かった。
もちろん、それだけではない。
藤沢さんが言ったのかどうかわからないが、クラスのみんなが僕を無視するようになった。
もちろん、僕に非のあることは痛すぎるほどわかっている。文化祭の準備をサボって、彼女との約束を優先するなら当然のことだ。正直に「彼女との約束がある」と言えばよかったかもしれないが、僕には言えなかった。
けれど、僕はそんなことは全部、忘れて無視することにした。いや、自分で考えてそうしたというより、松沢さんにあまりに夢中で、他のことが全く見えていなかったという方が正確かもしれない。
ただひとつ、例外は、そうであっても、僕は教会には毎週2回通い、月に1回説教をし、神谷先生の再来として尊敬されることを快く思い、愛の人らしく振る舞っていたことだ。
自分の中では、そんな自分と松沢さんに夢中である自分が、最初はコントラストを成しつつも、共存していたのだが…
松沢さんは、他に誰もいないふたりきりのところに行きたがった。
僕は断ることはできなかった、自分がS極に引かれるN極のように感じた。
そうして、学校の帰り道、ひとっこひとりいない〇〇霊園の中を歩き、草むらに座って話をしたり、「勉強を教えて、誰も家にいない時に」と言われたりして母も妹もいない部屋で勉強を教えるふりをしたりした。
それはそういうことだったが、僕にはわからなかった。
いや、本能ではわかっていたのかもしれないが、理想的な愛のイメージと信仰のゆえにギリギリ踏みとどまっていた。
松沢さんは、そんな僕が歯痒かったのかもしれない。
ついには、『エロ事師たち』というある作家の書いた本を僕に渡して言った。
「これを読んで」
その本を読むのは僕には大変だった。激しい罪意識を感じた。そして同時に、彼女が僕に何を望んでいるか、さすがに鈍感な僕でもわからざるを得なかった。
神様を取るのか、松沢さんを取るのか…?
信仰的には、こんな本を渡して読むように言ってくる松沢さんは悪魔とも言えるかもしれない。けれど、そう思い切ることもできない。
普通の人からすれば、お笑い話なのかもしれない。
そうやって、松沢さんを選べば、僕はもう神様とは関係がなくなって、普通の人の生きる道を歩むのかもしれない。
あるいは、松沢さんは、僕がクリスチャンであることを知ってからかって誘惑しているのかもしれない。
僕はぐるぐる苦しんだ。ひざまづいて神様に祈った。
「神様、松沢さんを清い目で見れるように助けてください。松沢さんにも聖霊を送って、あなたを信じることができるように導いてください」
そう何十度、何百度祈っても、僕は引き裂かれたままだった。
読むと約束した以上、僕は本を読んだが、僕には刺激的すぎて、僕の葛藤に拍車をかけるだけだった。
昼間は、授業を受けていても何をしていても心の中で祈り続け、夜は夢の中で松沢さんと本に書いてあるようなことをする夢を見た。
神様を捨てることはできなかったが、松沢さんから離れることもできなかった。