僕が午前1時に行くと、さすがに普段よりも人は少なかったが、それでも500人ぐらいの人はいた。
入り口を入ったところの右側の売店前で、大橋夫妻と待ち合わせていた。
「こんな時間に集まる人は、本当に熱心な人だけだろうね。何でも、執りなし手の女性は世界中の人に知られている預言者らしいよ」
「確かに、家にあったキリスト教雑誌で名前を見たことがあります」
確か、リバイバル特集で、今自分が来ているトロントで起きているリニューアルの他に、アメリカのサウスカロライナで起きているリバイバルを率いている女性預言者らしい。
「神の霊の臨在が濃い人だから、祈りを受けたら特に祝福がすごいと思うよ。ほら、あそこ、この教会の主任牧師夫妻も来ている」
前の方の席を見ると、巨漢の牧師と人なっつこそうな牧師夫人が目に入った。
集会が始まった。
深夜の祈りの集会ということもあって、クリスチャンロックが派手に演奏されるということはなく、控えめな静かな曲が演奏され、僕たちはそれに合わせて神を賛美した。
そして、いったん、ステージのライトが消え、次の瞬間、スポットライトが照らし出したところに立っていたのは、小柄な女性だった。
アジア系とも思われたが、よく見ると、ネイティブアメリカンの女性らしい、髪をひっつめ髪にしていて、年齢は30代半ばに見える。
控えめな目立たない感じだった。
こんな人が世界的な預言者なのだろうか?
そう思ったが、その印象はたちまちひっくり返された。
”Oh, Lord of hosts, give me your highest power of prophesying."(おー、万軍の主よ、予言するあなたの至高の力を私に与えたまえ)
腹の底から野太い声で、聞くもの全てを威圧する。
急に、会場の空気がピリピリと電気に感電する感じに変わった。
倒れたり、笑ったり、跳ねたりするという時と違う雰囲気だった。
そして、アンという名前のその女性預言者は、預言し出した。
座っている人たちをじっと見つめながら、右後ろの方を力強く指差した、まるでフェンシングの剣を突き刺すみたいに。
"You have hidden sins and try hard not to be exposed, but God can expose them in front of us. YES, HE CAN. NOW!"
(あなたは隠れた罪を持っていて、暴かれないように懸命に努力しているが、神は私たちの前で暴くことができる。そうだ、神は暴かれる、今!)
ひとりの白人の中年の男性がフラフラとよろけながら、前に出てきた。
預言者の前で、自分の性的な罪を告白する。
隣の大橋さんが奥さんに通訳する声が僕にも聞こえる。
何でも奥さんがいるのに、そのことを隠して女性と付き合って、関係を持ったそうだ。
男性は、預言者のそばで泣き崩れ、身をぶるぶると震わせている。
”I have come here to purify you of all sins to be ready for the upcoming greater REVIVAL."
(私がここに来たのは、来るべきより大いなるリバイバルに備えて、あなた方をすべての罪から清めるためです)
そうやって、預言者は次から次へと、指差して、人は次から次へと前に出て身を震わせた。僕は半ば、人ごとのように見ているだけだった。
けれど、女性預言者は明らかに僕の方にも指を指した。いや、僕の方ではない、僕だったのだ。