無意識さんとともに

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聖人A 50 転機

「あなたには、自分の使命に関する預言が与えられているはずです。立ってそのことを話してください」

アイザック神父は言う。

僕は、気が乗らなかったが、渋々立ち上がり、トロントで起きたこと、アンに与えられた自分に関する預言を話した。

すると、あろうことか、神父たちを初め、部屋にいるみんながどっと一斉に僕のところに押し寄せてくる。

僕は恐れを感じた。

そして、口々に『私に按手(頭の上に手を置いて聖霊の力が降るように祈ること)してください』と願ってくる。

僕は、観念した。

そして、心の半分では何も起こらないことを願いながら、まず、恐る恐るアイザック神父の頭に手を置いて祈った。

"COME, HOLY SPIRIT. MORE AND MORE!"(聖霊よ、来てください。もっとさらにさらに)

すると、神父はガタガタと震え出し、ジャンピングし始めた。

僕は、もうやけになって、次から次から頭に手を置いて祈り出した。

あるものは床に倒れ、あるものは10メートルぐらい吹っ飛び、あるものは笑い出す。

確かに、自分の中に爽快感があった。

けれど、心の中のどこかで、自分もとうとうたっちゃんと同じになってしまったのだという思いがした。

『こんなことして何か意味あるの?』

小さな声が聞こえたような気がした。

しかし、それも一瞬のことで、たちまち、その声も掻き消えた。

僕は、部屋中を按手して回り、僕自身が熱狂と賛嘆の渦の中に呑み込まれていった。

『僕はすごい、僕はすごい、僕は神の預言者なんだ』

さっきとは全く違う声が自分の中で叫び出していた。

とうとう、僕は、小さな頃からの夢を叶えたのだ、牧師でもなく伝道者でもなく、それ以上の存在に、つまり神の預言者に、そしてことによると聖人にだってなれるのかもしれない。

それから、2時間ばかりして、ようやく熱狂がおさまった頃、ひとりのシスターが僕のところにつかつかと近づいてきた。

そうして、僕の耳元に口を寄せ、囁いた。

「あなたは神の聖人になる道が備えられています」

僕は目を丸くして彼女を見た。不気味なほど、目が澄んだシスターだった。

「ただ、覚えておきなさい。聖人になるとは、皆の心のゴミを全て何でも受け入れる、巨大なゴミ箱になることなのです」

僕はその言葉を後々まで忘れることはできなかったし、今もできていない。

その日から、僕の人生は一変していった。

僕は、まるで王子のように扱われた。皆が僕を追いかけるようになった。

カトリックプロテスタントと違って、人に、そうして人の体にさえも、神の聖なる力が宿ると考えられていた。

だから、神父でなくても、聖なる力が宿ったと思われた人は皆が追いかける対象になる。僕もいつの間にか、そんな対象にされていったのだ。