それでも、僕は教会に行き続けた。
人に会うためではない、神様に会うためなのだ、僕はそんなふうに思っていた。
でも、僕は、Rさんが『あなたの言うことが正しかったわ、ごめんなさい』ということを、心のどこかで期待していたのかもしれない。
時々、Rさんの姿を見かけた。
僕たちが座っていた御堂のベンチで、俯き加減の女性に祈っていた。
女性の背中に手を当てて、ほんとに敬虔そうに、女性の癒しを祈っている。
祈りが終わると、女性は涙でぐしょぐしょになった顔をあげる。
「ありがとうございます。Rさんは、本当に神様が私たちに与えてくださった聖なる人です」
僕は、陰でその言葉を聞いていて、今すぐにも飛び出して、Rさんがどういう女性なのか言ってやりたいような気持ちに駆られた。
でも、そんなことをして一体、何になるのだろう、そういう思いもあって僕は決してRさんのあの話を人に言うことはなかった。
Rさんとは逆に、僕自身は、すっかり神に見放されたのか、見捨てられたのか、僕が誰かのために祈っても、これといった何かが起こることはなくなっていた。
それで、もう、僕のところに、『助けて』とか『祈って』とかいう人は完全に来なくなった。
『ああ、これでせいせいした』、僕は自分で自分に言い聞かせた。
『もう、人に追いかけられることもない。やっと、僕は僕でいられるんだ』
けれども、その僕はどこにあるんだろう。
ただ、すっからかんのお役御免の僕がいるだけだ。
もはや、誰からも期待されない、必要とされない、空っぽのゴミ箱。
そう思ってしまうと、僕はまた布団から起き上がることはできなくなってしまった。
大学にも教会にも行けなくなった。
部屋から出ることさえも怖くなった。
ただ、ひたすら布団の中にいて、うわごとのように、神に奇跡を乞い願う。
しかし、どんな奇跡を願っているのかさえわからない。
とにかく、奇跡を、こんな自分から脱することを奇跡を、一刻も早く早く早く。
そう祈る以外は、母と妹が持ってきてくれる食事をわずか食べる。昼は眠っていて、夜は眠れない夜を過ごす。今までの人生の罪や失敗や過ちが、つなぎ目のないフィルムの上映会となって延々と脳の中に映し出されていく。
『僕は、あの時、どうしたら良かったんだろう?こちらではなくて、あちらを選べば良かったんだろうか』
『あちらを選んでいたら、もう少しましな人生を歩んでいたのだろうか』
時折、そんなグルグルが中断されることもある。
『お前は神の預言者に選ばれたのに、聖人の道を歩んだのに、神の与えたもうテストに失格した。お前の信仰は破船したのだ』
そうして、悪魔に心も体も鞭打たれるそんな気分の中に落ち込んでいった。
もう、生きながらにして地獄の中にいる、そんなふうにしか思えなかった。