神楽坂さんの家に行くのは、数年ぶり、2回目だろうか。
けれど、最初に行った時と変わらず、緊張する。いや、あの時よりも緊張しているのかもしれない。
もう自分が卒業してしまった中学校の近くの踏切を渡り、住宅街を入ると、神楽坂さんの家があった。
チャイムを鳴らすと、玄関のドアが開いて、神楽坂さんが現れる。
ファミレスで卒業祝いをしてきてくれた時以来だが、何だか、美しさに磨きがかかってもう大人の女性という感じしかしない。もう高校3年生なのだから、そう見えても何の不思議もないのかもしれないが。
「上地君、紗奈はもう来て待ってるよ」
まだ、約束の時間にはだいぶ早い。それなのに、佐伯さんはもう来ているのだろうか。
会いたいような、会いたくないような。
部屋に入ると、相変わらず、書庫のような部屋だった。本の匂いが鼻をかすめる。
そうして、前にはなかった黒の折りたたみテーブルのところに、白い薄手のガーディガンを羽織ったカーネーションのような女の子が座っていた。
僕は誰だかわからなくて混乱した。もうあの頃のギャルの佐伯さんの面影はどこにもない。もちろん、あのことがあった後も佐伯さんはもうギャルではない容姿になっていたが、それでもまだ少しはそれを思わせる何かが残っていたが、今はまるで別人の外見だ。
「佐伯さん?」
「上地君、会いたかったよ。連絡してくれなかったから」
佐伯さんはそう言って頬を赤らめる。
「ごめんね、いろいろ忙しくて」
僕はちょっと胸が痛んだ。
「もう友達じゃなくなっちゃったのかと思った」
「そんなことないよ」
「そうか、だったら良かった」
「その話は、それまで。後にすることにして、今日の本題に入ろう」
神楽坂さんは取り仕切るように言った。
「上地君、催眠の練習をしたいということだよね」
「そうです」
「じゃあ、どんなものかざっと説明してくれるかな」
僕は、ざっと説明した。神楽坂さんは猫のように好奇心に目を輝かせながら、佐伯さんは表情を変えずに聴いていた。
「紗奈、こんな感じらしいけど、大丈夫?」
「はい、ふたりがいるので大丈夫です」
それから、僕がまず最初にお手本を示すことになって、神楽坂さん相手に、次に、佐伯さん相手に、イエスセットをやってみせた。
「本では読んでいたけど、何だか、本当に頭がぼうっとする感じだな」
「ちょっと眠いです」
そうして、今度は、みんなでかわるがわるイエスセットをやってみた。
知らない間に、たちまち、時間は過ぎていった。
「思った以上に、興味深いな。これから毎週、同じ時間に集まって練習したらどうだろう?」
僕には願ってもないことだった。
「そうできたら、うれしいです」
「私も少し興味が出てきました」
「それじゃ、今日はこれでお開きということで。さすがに、学内推薦とは言え、ちょっとは勉強しないとね?」
僕と佐伯さんは、一緒に帰ることになった。