佐伯さんと肩を並べて歩く。中学校が目に入ってくる。
「懐かしいな」
「そうだね」
「あの頃が1番だった」
「1番何だったの?」
「1番楽しかった」
「そっか、ジェットコースターみたいだったけど」
「そう、ジェットコースターみたいだった」
「高校はどう?」
「平和…かな」
佐伯さんの外見からもそれはわかる。
「良かったね」
「上地君はどう?」
「結構、忙しいかも。学校とバイトで」
「無限塾のチューターって楽しそうだものね」
「うん」
「さっきも言いかけたけど、私のことを今でも友達だと思ってくれる?」
…
「思っているよ、佐伯さんは僕の友達だよ」
見上げるようにして僕の目を覗いてくる。僕はちょっとたじろいだ。
「友達なら連絡をとってほしいな」
佐伯さんは聞こえるか聞こえないかの小さな声でささやいた。
中学校の裏門の前で、僕たちは立ち止まって話していた。
ここから佐伯さんの家はすぐそこだ。
「もしかして、時間ある?」
「あるかな…まだお昼だもの」
「それだったら、ファミレスに行かない?」
「いいの?」
「いいよ」
それから、僕たちはあまりに行き慣れたファミレスに、久しぶりに行った。
そして、あまりに座り慣れた窓際の席に、やはり久しぶりに。
日曜日だからか、店内は家族連れが多い、友達同士とかカップルはほとんどいない。
「ここも懐かしいな」
あらためて正面から見ると、佐伯さんの肌は抜けるように白い。
「よく来たね、ここに」
「…浜崎さんとはあの後、会ってる?」
佐伯さんは大きく息を飲み込んでから、言葉を一気に吐き出した。
「いや、会ってないよ。どこの高校に行ったかも知らない」
「そうなんだ、何で聞かなかったの?」
佐伯さんの今の外見に僕が慣れてきたからなのかそうでないのか、急に佐伯さんの輪郭が僕に鮮明に見えてきたようだった。
「わからない」
「浜崎さんも聞いてほしいと思ってたに違いないわ」
「そうかもしれないね」
「私だったら、そう思うわ」
「…だね」
隣のホームセンターの駐車場で、小学生の女の子たちがバドミントンをしている。
「楽しそうね」
「今度、バドミントンしようか?」
「今度っていつのこと?」
「そうだね」
そう言われて、僕は何だか言葉が出てこなかった。今度っていつのことだろう。
「上地君は、今でも、浜崎さんのことが好きなの?」
不意を突かれて、僕は驚いた。けれども…
「好きだよ」
「変わらないのね」
「変わらない」
「浜崎さんが羨ましい」
佐伯さんは、華奢な手で白いカップを持ち上げ、オレンジ色の液体を一口、飲んだ。