家に帰ると、母と妹に検察官のように追求された。
もちろん、本当のことなど言えるはずもなく、僕は嘘をつかざるを得ないことに良心の呵責を感じた。
「お前は、私の期待を何度裏切ったら気が済むの?」
母はおそらく、僕がカトリックに改宗したことと今回のことを言っているらしい。
「お兄ちゃんは、悪い女の人に食べられちゃった」
妹はあられもない言葉で責めてくる。
言い訳を言えば言うほどややこしくなることはわかっていたので、僕は貝のようにひたすら黙り込んだ。
そのうち、母と妹も諦めたのか、何も言わなくなった。
けれど、前から感じていた背中の痛みが、急にひどくなってきた。とにかく、背中が折れ曲がりそうに痛む。医者に行っても、原因はまるでわからない。
僕は、とんでもない重荷を背負っているようだった。そして、重荷は毎日、だんだんと大きくなってくる。
人は聖人志望の僕に助けを求めて、僕の背中にどんと重荷を載せてくる。
僕が耐えきれなくなって、助けてと言っても、聞いてくれるものは誰もいない。
いくら、神に祈っても、この背骨をへし折りそうな重荷を取り去ってはくれない。
ある夜も、布団に横になっていたが、あまりに背骨が痛むので、思わず起き上がって祈り出した。祈っているうちに、何だか背中に冷や汗が流れてくる。気持ち悪くもなってくる。
その絶頂で、神の声がする。
「その重荷はわたしの恵みの大きさだ、わたしの力は弱さのうちに完全に現れる」
聖人になるためには、僕はもっと弱くならなければならないという神の声。
さらに、背中の重みがズンと増す。神様でさえ、重荷を取り去ってくれるどころか、さらなる重荷を載せてくるとはどういうことなのだろうか?
あの後、昼間、地元の教会に祈りに行った時、Kさんと出くわした。
「誰も知らない教会で赦しの秘跡を受けてきたわ」
「よかったですね」
それだけ言うと、Kさんは去って行った。
僕は、本当は、自分がKさんに救ってもらいたかったのかもしれない。
そして、あのことはKさんなりの自分への救いだとしたら?
けれど、僕は、そのとんでもない考えを、悪魔からのものだとして、祈りで振り払った。
「佐藤君?」
声をかけてきたのは、地元の教会で知り合った伊勢崎さんだった。
彼女は、四谷のI教会の隣の大学を出て、今は病気療養中だ。
聖霊刷新グループを忌み嫌っていたが、不思議に僕には話しかけてくる。
「どうしたの?元気ないけど、これから知り合いとお茶するんだけど、一緒に来ない?」
「ええ、まあ」
僕は断りきれずに、伊勢崎さんに捨てられた子犬のようについて行った。