無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

聖人A 46 改宗式

最初は、生まれてからの自分の罪を紙にしたためようと思ったが、どうしてもまとまらない。

赦しの秘跡は、聴罪司祭として有名なK神父がすることになっていた。

時間になって、I教会の御堂の後ろに並ぶ。

どんなことをどこまで言おうかと、僕は悶々としたが、ここまで来たら何もかも言うしかない。

僕の番が来た。

映画の場面とそっくりで、体がギリギリ入るぐらいの狭い空間で、小さな窓のようなところを司祭が開いて、罪の告白を聴く。

「父と子と聖霊の御名によって。アーメン」

「回心を呼びかけておられる神の声に心を開いてください。神のいつくしみに信頼して、あなたの罪を告白してください」

「改宗式を受けるにあたって、生まれてから今までの罪を、神の前に告白します」

僕は、自分で思い出せる限りすべてのことを告白した。もちろん、流花ちゃんの裸身を見たこと、それだけでなく、それを何度も思い出して自慰に耽ったこと、松沢さんに情欲を抱いて何十度となく心の中でそういう行為をしたこと、そしてそれ以外も包み隠さず言った。

身体がガタガタと震え、汗と涙が滝のように流れる。

司祭はただじっと聴いている。

僕の告白が終わると、司祭は「罪の告白は、詳細に語る必要はなく、大筋を言えばそれで大丈夫です」とカタコトの日本語で言う。

僕は、何だか脱力して、呆然としていた。

「それでは、神の赦しを求め、心から悔い改めの祈りを唱えてください」

「神様、こんな罪人の私のために、あなたの尊い御子イエスを送り、私のために十字架につけて、私をあなたの子としてくださったことをありがとうございます」

「全能の神、あわれみ深い父は、御子キリストの死と復活によって世をご自分に立ち返らせ罪の赦しのために聖霊を注がれました。神が教会の奉仕の務めを通して、あなたに赦しと平和を与えてくださいますように。私は、父と子と聖霊の御名によって、あなたの罪を赦します」

「アーメン」

「神に立ち返り、罪を赦された人は幸せです。ご安心ください」

僕はよろよろと告解室から出た。

そして、何とか、大橋さんと主任神父がいる部屋に向かう。

改宗式というのは、何か儀式があるのかと思っていたが、「これであなたはカトリックになりました」という主任神父の言葉だけで終わりだった。

「霊名をつけなくてはなりませんね。何かありますか?」

そうか、霊名は誰かにつけてもらうものだと思っていたが、自分で選ぶことができるのか。

「それなら、フランチェスコでお願いします」

僕はあの映画を思い出していた。

アッシジのフランチェスコね」

僕はフランチェスコという霊名になった。聞けば、一番つける人が多い霊名らしい。それはそれでいいかもしれない。