皆が一斉に僕を見る。
そうして、皆の視線のひとつだけに僕の視線は集中する。
僕たちは、一瞬、5、6メートルの距離を置いて、見つめ合った。
僕には、その瞬間が永遠の至福に感じられる。
そう、僕は、後ろ姿でもわかったのだ、僕が座っているより前の方の席に座っていたセミロングの色の浅黒い女の子、はまっちを。
「うえっち!」
あの約束はどうなったのか、はまっちは僕の名前を呼ぶ。
みんなは今度は、はまっちと僕を交互に見てくる。
僕たちはそんなことも気にしない。
けれど、パラダイスのような時間は破られる。
気がつくと、釘山さんが肘で僕を突いていた。
好奇心に満ち満ちた瞳で、僕の目を覗いてくる。
「もしかして、彼女?」
「うん、まあ、いや」
何事もなかったように、年配の方の司書の先生が図書室での貸し出し業務について話し始める。
「昼休みと放課後に、交代で、各クラスの委員2人でカウンターで貸し出し業務をしてもらいます…」
僕は、先ほどのはまっちの視線とはまっちの僕を呼ぶ声でもう胸がいっぱいになってしまって、なんだか内容が頭に入らない。
「ふたりで一緒に頑張ろうね」
釘山さんが言ってくる。
「そうだね、よろしく」
次に、図書委員長と副委員長が立ち上がって(二人とも女子だった。見回せば、図書委員の3分の2は女子だ)、次期の図書委員長と副委員長兼書記の選出を行うようだ。
「誰かやりたい人?」
すると、2、3呼吸おいて、まっすぐ手を上げる女子がいる。セミロングで中肉中背の目がクリクリと大きな女子だ。
「他にはいますか?」
誰も手をあげない。
「狩野さん、前に出てきて」
狩野さんはすっすっと前に出てくる。
「狩野さんが図書委員長でいいと思う人は、挙手してください」
全員の手があがる。
「では、新図書委員長に代わります。狩野さん、よろしく」
狩野さんは、みんなの前に立ち、ハキハキと話し始めた。
「副委員長兼書記は、委員長の権限で選ぶことになっています。そういうことで…浜崎さん、よろしく」
ええっ、はまっちが副委員長。
はまっちってそんな感じだっけ。
はまっちは立ち上がって、前に歩み出す。なんだか、僕が知っているはまっちよりも背が高くて落ち着きがある。
委員長の横に立って、皆に軽く会釈する。
「副委員長に指名された浜崎です。委員長を精一杯サポートしたいと思います」
なんだか大人っぽい。
急に、女子が誰か声をあげる。
「さっき見つめあっていた男子とは付き合っているんですか?」
はまっちは余裕の表情で言葉を返す。
「まだ、今のところはお付き合いしていません」
みんなは笑う。僕は戸惑ったが、なんだかちょっとうれしかった。