それから、御堂で会うたびに、木製のベンチでRさんのために祈った。
Rさんは力のない弱々しい感じだったのに、だんだん、顔色もよく頬も薔薇色になってきたように見える。
「最近は、自分でも祈るんですが、聖霊様ってすごいですね」
「そうですね」
僕はちょっと気のない返事をした。
「自動販売機で飲み物を買う時にも、聖霊に聞くと教えてくれるんです」
「すごいですね」
僕はそう言いつつも、『それはちょっと行き過ぎじゃないか』と心の中で思っていた。
もう秋が終わり、冬も近い。風が冷たい。
「私、実はとても大きな罪を過去に犯して、罪悪感を拭うことができなかったんです」
「そうなんですか?」
僕は、急にスイッチが入ったロボットのように、Rさんに注意を向けた。
「それが、佐藤さんが祈ってくれて聖霊に満たされてから、初めて罪悪感が消えたんです」
たちまち、Rさんの目に涙が溢れる。
「よかったです、そうだとすれば、それは僕がしたんじゃない。神様のお導きです」
「神様のお導きだとしても、佐藤さんを通して与えられた恵みですから、佐藤さんには本当に感謝しています」
そうして、Rさんは、本格的に泣きながら、自分が中学生時代に犯したという罪を僕に話した。
確かに、人に知られても知られなくても、スティグマになりそうな深刻な罪だった。
「よく、そんな罪を背負って、それでも今まで生きてこられましたね」
僕は、自分の聖人モードを発動して、そう言った。
「神様は、こんな私でも愛していてくださるのですか?」
Rさんは上目遣いで僕を見て言う。何だか、Rさんが可憐に思えて仕方ない。
「Rさんにご自身の聖霊を注いだということは、神様が誰よりもRさんを愛しておられる証拠ですよ」
僕はそう言いながら頬を赤らめた。神様のことを言っているのに、まるで自分がRさんに告白しているような気がする。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう」
Rさんは、いきなり、僕の胸に飛び込んで幼い女の子のように泣きじゃくる。
僕は、ためらったが、Rさんを抱きしめてそれを受け止める。
そうやって、しばらくした後、Rさんはようやく泣き止んだ。
「これで、私たち、お付き合いするしかありませんね」
顔を上げて僕に言う。
「お付き合いするっていうことが神様の御心っていう意味ですか?」
「そうです、今、聖霊様が『この人とお付き合いしなさい』と言われました」
今、考えると、何とも変な話だが、僕たちはそれで付き合うことになった。