無意識さんとともに

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聖人A 57 審判

「ほら、私の顔を見て」

そう言われて、僕は下からKさんの顔を見つめた。

ファンデーションを落とした顔には、右目の下から頬にかけて、縦に、はっきりとわかる傷があった。

「これを見せたのはあなただけよ」

Kさんはほとんど泣きそうな顔になった。僕はそんな顔を見ていると、何だか自分も号泣したくなった。

「だから、させて、お願い」

それでも僕はできない、僕は再び、イエスの祈りを唱え始めた。

何だか、自分が残酷なことをしているような、Kさんをいじめているような気がしてならなかった。

「『火をつけた責任、最後まで』という言葉を知らないの!」

Kさんは声を絞り出すように叫んで、バスローブを投げ捨てて、一糸纏わぬ姿で僕を何とかしようとする。

僕は、祈りをし続ける。そして、不思議なことに、僕は祈りの中で意識を失った。

気がつくと、朝だった。

Kさんは、自分のベッドで丸まって小さな子供のように眠っていた。

頬に涙の跡があった。意識を失っている僕をどうすることもできなかったらしい。

僕は、胸が締め付けられるように感じて、彼女の髪を撫でた。

そのうちに、彼女はパチリと目を覚ました。

部屋のテーブルのところの椅子に座ると、虚ろな表情で話し出した。

「あなたとは付き合えないわ」

「えっ」

僕はショックを受けた。僕はまだ、彼女と付き合い続けるつもりでいたから。

「なんて顔をしているの?馬鹿なの?」

僕はうなだれた。

「本気で私のこと好きだったの?」

「そうだと思う」

「でも、あなたは覚悟を示さなかった。もしかしたら、あなたはあなたなりの覚悟を示したのかもしれないけど、私が求めていた覚悟とは違っていた」

「そうなんだ」

今度は、僕が小さな子供のように感じた。

「今まで、私の誘いに屈しなかった人はいないわ。神父も、神学生も、Hさんも。みんな、獣のようになって襲いかかってきたわ。その時に、私は自分は自分の価値を感じることができたの。けれど、あなたと言ったら…なんて愚かなの」

「僕は…」

まるで、自分が叱られた子供のように感じた。

「あなたのような人は、私には不要だわ、何の役にも立たないもの」

けれど、そう言って、彼女は泣き出した。

「ごめんね、僕を赦して」

僕は、おそらく、自分にとっては1番甘美な、彼女にとっては1番ひどい言葉を口にしていた。

「いいのよ」

彼女は、彼女が崇敬してやまない聖母マリアのように、僕を抱きしめてそっと口づけた。

「もういいわ、私は、どこか遠くの教会で罪を告白するわ。そうしたらこの罪は赦されるでしょうし、それで全ておしまい」

僕と彼女は、バラバラに外に出た。日の光が真っ直ぐ目に飛び込んできて、ただまぶしかった。