7月7日。
僕は、4限目の試験を終えた。
テストの出来はわからないが、今の自分の力は出せた気がする。
そうして、心はすぐさま、僕の身体よりも早く、司書室のはまっちのところに向かっているようだ。
僕は、初夏の日差しがいっぱいに差し込む廊下を通って、司書室に向かった。
白いドアを開けると、はまっちが長テーブルの右側手前に座っていて、司書の先生と話している。
僕を見上げたその顔がいつもよりさらに可愛く見えるのは気のせいだろうか?
「うえっち、来たのね」
誰の前でも、ためらわずに僕のことをうえっちと呼んでくれるはまっちがなんだか愛しい。
「はまっち、お待たせ」
「そうだ、お茶飲む?」
司書室では、図書委員がポットの鳩麦茶を自由に入れて飲むことができるようになっていた。
「そうだね、急ぐ必要もないしね」
はまっちは湯呑みに鳩麦茶を注ぐ。
「どうぞ」
はまっちが一口飲んで、僕も一口飲む。
「ついに、この日が来たんだね」
「そうね、長かったような、短かったような」
「いろいろあったね」
「ほんとにいろいろあった、でもよかったわ」
「そう、確かによかった」
僕たちの会話を誰かがはたで聴いていても何のことやらわからないだろう。それに、司書室には、窓際の机で自分の仕事に戻った司書の先生がひとり、もうひとりの司書の先生は会議に出ているのだろうか?
あとは、1年生の男女が右手の貸し出しカウンターに座っているのが、開け放たれたドアから見えるだけだ。
いい意味の無関心が僕たちを取り巻いている。
「そろそろ、行こうか?」
「そうだね。先生、鳩麦茶、ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
僕もあわてて、はまっちについで言葉を発する。鳩麦茶をいつも当然のように飲んでいたが、ごちそうさまなんて言ったことは初めてだった。
「じゃあ、がんばってね」
先生は顔をあげて言う。
先生は何か知っているのだろうかとも一瞬、思ったが、顔の表情からそんなことは見てはとれない。
「はい」
はまっちは素直にうなずく。
僕たちは、湯呑みを洗って水切りかごに戻し、鞄を抱えて、白いドアを引いた。
そうして、並んで歩き出した、僕が前になることもなく、はまっちが前になることもなく。
学校の校門をくぐり、左折すると、右手に黄金色に輝く麦畑が広がる。麦畑を渡る風が、僕たちの頬をなでつける。
「17歳の7月7日、それ自体に意味はなかったのね」
「そうだね、意味は僕たちが与えるものなのかもね」
「そう、この物語の意味を私たちが与えるのね」
僕たちは、ただ、満足気にうなずき合った。