「えっ?」
「催眠やってるのよ、私も」
「本当?」
「本当に」
もっと聞きたいが、もう昼休みも終わってしまう。
「放課後、時間ある?」
はまっちはちょっと微笑みながら言う。どういう意味の微笑みだろうか?
「もちろん、あるよ」
「じゃあ、街道沿いのファミレスに行かない?」
「いいよ」
「放課後すぐに図書室で待ち合わせね」
「うん」
「じゃあね、その時にね、うえっち」
うえっちと言われて、心臓がぎゅっと掴まれた感じになってしまった。
「その時にね」
はまっちと返したかったのに返せなかった。司書の先生たちが戻ってきた。僕たちは急いで自分たちの教室に戻った。
僕は、午後の授業に集中しようとしたが、何だか胸に火が点ったようでドキドキして集中できなかった。女子の友達は多いけれど、はまっち以外にこんな感覚を感じたことはない。
やはり、はまっちは、自分にとって特別な存在だと思わざるを得なかった。
放課後になると、僕はいの一番で教室を出て、図書室に向かった。
階段を何段もまとめて駆け上がりたい気持ちだったが、むしろ、自分に落ち着いてと言い聞かせて、一段一段踏みしめるようにして上った。
図書室の入り口の脇の白い壁にもたれかかるようにして、女の子が立っていた。
速攻で教室を出たのに、もう来ていることにちょっと驚いた。
「早いね」
「うん、そうね」
はまっちはちょっと頬を赤らめた。
「行こうか」
「うん」
僕たちは連れ立って歩いた、ふたりの距離は近くもなく遠くもなく。
昔、あの道を歩いた時は、はまっちは僕よりちょっと低いぐらいだったが、今は、僕の方がだいぶ高くなっている。
「一緒に歩くのも久しぶりね」
「そうだね、どれぐらいかな?」
「ディズニーランドに行った時以来かも」
「ディズニーかあ」
僕の胸はズキンと痛くなった。
「でも、こうしてまた会えるなんて」
「不思議だね」
僕は、『運命だね』なんていう言葉が真っ先に思い浮かんだが、急いで打ち消して無難な言葉にした。
「そう言えば、今日はちゃんと髭を剃っているのね」
はまっちはちょっとからかうような調子で言った。
「よせよ、廊下ではまっちにぶつかった時はたまたまだよ」
と言ったが、1年前に廊下ではまっちと遭遇した時は、まだ、髭を剃ることに慣れていなかった。今は、もう慣れた、というより、剃らないとどうしようもなくなってしまう。
「もう高2だからね」
はまっちは僕の心を見透かしたような口調で言う。
「そう、もうすぐ17歳だから」
17歳!僕たちは立ち止まって、お互いの瞳を見つめ合った。