「私なんか、それとは違うドロドロだもの」
「ドロドロって?」
「素直なお子ちゃまにはちょっと話すのはためらわれるんだけど、まっいいか」
「僕だって高2だよ」
「それもそうね、彼氏は浮気し放題で、でも別れられないの」
「そう…なんだ。でもどうして?」
「それはちょっと18禁かな」
「18禁も何も、同じ歳じゃないか」
「そりゃ、そうなんだけどね。ちょっと刺激が強すぎるかも」
なんでも、心では彼氏のことが許せないけど、体の相性が良くて別れられないと。確かに、僕には刺激が強すぎる話だった。同じ高2でそんなことを経験している人がいるなんて想像できない。
「でも、本当にそうなのかな?それも一種の共依存で、体の相性うんぬんは後付けの理由じゃないの?」
「共依存?」
僕は簡単に共依存を説明した。自分が共依存を散々体験したから、我ながら会心の説明ができたような気がした。
「うん、そう言われると、確かにそうかもしれないし、そうでないかもしれない。でも、私が上地君と浜崎さんの関係を羨ましく思うのはわかったでしょ?」
たぶん、それ以上、この話に突っ込んでもらいたくなかったのだろう。
「そうだね」
僕たちは、冷たくなったほうじ茶を飲み干した。
厨房の奥にいる大将を呼んで、それぞれお金を支払い、店を出た。
いつの間にか、暗くなりかけている。
脇が畑のだらだら道を並んで歩く。ふと、こんなふうに女の子と歩いていると、はまっちと歩いた小5の頃のことを思い出してしまう。
けれども、隣にいる女の子は髪の毛の長さも何もかも違う。
「今、浜崎さんのこと考えていたでしょ?」
「ええっ、どうしてわかったの?」
「何となく。ほんと、浜崎さんが羨ましいな。彼氏がそんなふうに私のこと考えてくれるなんて、想像できないもん」
僕は何て返事をしたらいいかわからなくて、押し黙った。
「あっ、そうだ。私に催眠かけてくれない?」
「えっ」
「約束したでしょ」
あれは約束だったのか。
「でも、場所がね」
「あんな話をしたから、ちょっと私にビビっているんでしょ?」
「いや、そんなことないよ」
「だったら、どこでもいいから、お願い。私の家でもいいわ」
と言われても、釘山さんの家は無理だった。中2の僕なら佐伯さんの部屋に何も考えずに行けたが、高2の僕には無理だった。ましてあんな話を聞いた後では。やっぱり、ビビっていると言えるのかもしれない。
「どうしてもというなら、公園とかでいいかな」
「それでいいわ」
「じゃあ、授業が早めに終わる日にね」
「ありがとう、助かるわ」
「と言っても、僕がするのは、催眠術じゃなくて催眠だよ。思っているものよりずっと地味なものだよ」
「いいの、いいの」
僕はとんでもないことを引き受けたような気がしたが、心に聞いてみると、大丈夫と言っている気がした。