無意識さんとともに

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聖人A 59 紹介

駅構内のハンバーガーショップで、僕たちはお茶をした。

伊勢崎さんが待ち合わせたのは、Rさんという、伊勢崎さんと同じ25歳ぐらいの女性だった。

「こちらは、Rさん。可愛らしいでしょ」

伊勢崎さんは、頼んでもいないのに一方的に紹介してくる。Rさんは細面で、笑うとえくぼが出る。

「こんにちは、佐藤です。よろしくお願いします」

「こんにちは、Rです。よろしくお願いします」

型通りの挨拶をして、一体、初対面の人を交えて何を話したらいいんだろうかと思っていると、伊勢崎さんが割り込んでくる。

「佐藤君は、同じキリスト教徒の人と幸せな家庭を作りたいのよね?」

そんなことをいつ言っただろうか?

けれど、あまりにその通りなので、僕は思わず、下を俯いてしまった。

「ほら、Rさんなんかどう?あなたの夢にぴったりじゃない?」

「やめてくださいよ、Rさんだって困っているじゃないですか」

そう言ってはみたものの、Rさんはにこにこ笑って、僕たちのやりとりを黙って聞いている。

「Rさんもまんざらではないのよね?佐藤君のこと、よく私に聞いてきたし」

「何で僕のこと知っているんですか?」

「そりゃ、佐藤君は有名人だもの」

「そうなんですか」

「そうよ、なんたって聖霊刷新グループのホープだもの。狙っている女性はいっぱいいるでしょ?」

「狙ってるなんて言い方、やめてくださいよ」

僕は思わずムッときたが、Kさんのことが反射的に頭に浮かんだ。

「あら、ほんとのことよ。自分でも身に覚えがあるでしょ?」

思わず、ぎくりとした。この人は僕とKさんのことを知っているんじゃないかと疑ったが、そんなことあろうはずもない。

「いや、身に覚えなんてありません」

ちょっと、心が痛む。

「聖人志望の人が嘘ついちゃ、ダメよ。まあ、それはともかく、Rさんなら安全だからおすすめよ。私の保証付き」

Rさんは、何も言わずにただ頬を赤らめていた。

「こんな可愛くて美しい方、僕にはもったいないです」

「そんなことないわ、あなたにぴったりよ、ねえ?」

伊勢崎さんはRさんに同意を求める。あたりは、高校生がたむろしていて騒がしい。

「…」

Rさんは何か答えたようだが、周りの音にかき消されて、僕には聞こえなかった。

その後は、ただ、伊勢崎さんが自分のことを一方的に話した。

伊勢崎さんは、教会の同年代の人に距離を置かれている。

その理由は、彼女の話を聞けばわかる。

その時も彼女自身が言っていたことは、何でも彼女に言い寄った人に神の罰が下ったとか、恐ろしげな話だ。

けれど、そんな話を陽気に語るので、何だか大したことがないように思えてくる。