無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 187 クリスマスの準備

この頃の生活は充実している。無限塾のチューターに、図書委員会、そして何よりはまっちとまた普通に話せるようになったことは大きなことだ。

家は相変わらずだが、食事がなければ自分で作ればいいし、母に嫌味を言われても距離を置けばいいし、何より、大学には自分のお金で行くと言っているから母にもそれ以上、突っ込みどころがないようだ。

卒業したら出ていって一人暮らしをすることは、当然、言っていないが、それもまあ何とかなるだろう。

困ったことがあったら、自分の心に聞けばそれでいい。

受験勉強は、英文法、英単語、英熟語、英文解釈、現代国語、古文、漢文、世界史と、それぞれ、一冊に絞って、淡々と繰り返している。

前の自分なら、人のやっていることが気になって、今やっている本に集中できなくなってあれもこれもとやっているところだが、今は不思議と気にならない。

ということは、あれっ、やっぱり自分も相当、変化しているのかもしれない。

そう思うと、何だか、自信が出てくる。

約束の24日まで、もうすぐ。

はまっちは、ポットラックパーティ(一品以上持ち寄ってパーティをすること)をすると言っていた。

「うえっちは何も持ってこなくていいよ」と言っていたが、僕も何か作って持って行きたいなと思った。

いくら時々、家で食事を作っているとは言え、そんな複雑なものを作っているわけでもない。

そうすると、自分が作れそうなもので、藤堂さんやはまっちと被らないものは何がいいのだろう?

『心よ、何を作ったらいい?』

『中華料理なんていいんじゃないの』

『心よ、中華料理のどれ?』

『何でもいいと思うけど、エビチリなんていいんじゃない』

エビチリかあ、流石に作ったことがない。

僕は、放課後、人がほとんどいない図書室で、料理の本が置いてある棚を見てみた。

すると、釘山さんが近寄ってくる。

「何してるの?」

「えーと、中華料理の本を探してるんだけど」

「中華料理?」

「そう」

「自分で作るの?」

「まあね」

「何の料理?」

「エビチリ」

「本に書いてあるレシピだけだと、難しいかもしれないよ」

「そうなんだ」

「なんで、エビチリ作るの?」

好奇心に駆られた猫のように、いろいろと聞いてくる。

「クリスマスの持ち寄りパーティで持っていくための一品」

別に隠す理由もなかったので、正直に話した。

「えー、浜崎さんとだよね?」

「まあね」

「そっか、私がうまくいくレシピ書いてあげようか?」

「いいの?」

「もちろん。ほら、お世話になったし」

次の日、釘山さんは、ルーズリーブにエビチリのレシピを書いてきた。

色鉛筆で材料や途中経過、完成したものが描かれ、失敗しないように注意点やコツなどが書かれている。

「これ、書くのにすごく時間かかったんじゃない?」

「いいの、いいの。これで、上地君が浜崎さんとうまくいくならお安いご用」

「ありがとう、釘山さん」

これで、準備万端だ。