もちろん、Kさんのことがあってすぐだから、僕は、女性に対しては特に距離を置こうとした。
けれど、神様のお導きなのか、それともたまたまの偶然なのか、地元の教会に祈りに行くと、Rさんに顔を合わせるようになった。
もしかしたら、以前も顔を合わせていたのかもしれない。ただ、顔を合わせてもRさんのことを知らなかったから心に留まらなかっただけなのかもしれない。
そうして、僕はRさんと自然に話すようになっていった。僕たちは、御堂の脇の例の木のベンチのところに座ってよく話したものだ。
「私はキリスト教に入って日が浅いので、あんまりよくわからないんです」
Rさんは、ごくごく普通の人のように見える。
「僕もカトリックになったばかりで、カトリックのことはよくわかりません」
僕はRさんにプロテスタントとカトリックの違いをざっくり説明した。
「そうなんですね、同じキリスト教なのに別れているなんて何だか悲しいですね」
「そうですね」
そういうふうに思うのが普通の人の感覚だろう。
秋風が吹いてきて、Rさんのセミロングの髪を揺らす。
「ところで、他の人に佐藤さんに祈ってもらうといいと言われたんですが…」
「そうですか?」
僕は、正直、やれやれと思った。ありが砂糖に群がるように、「助けて」とか「祈って」とか言ってやってくる人に辟易していた。
「もし、よろしければ祈っていただきたいんですが…だめでしょうか?」
けれど、そう言われれば無下に断ることもできない。それに、僕はRさんの控えめな態度に好感を持ち始めていた。
「わかりました」
まだ、二十歳そこそこの若造が何だか偉そうにという声が頭の中で聞こえてきたが、僕は払いのけた。
「神様がRさんの上に聖霊を送ってくださいますように、イエス・キリストのお名前によって、アーメン」
僕は、特に悩みを聞くこともなく、ごくごく単純に、前に頭を下げるRさんの頭に手を置いて祈った。
祈った後も、Rさんは静かにじっとしていた、何だか涙を流しているらしい。
もうこれでいいと思って手を離した瞬間。
「プサラサマラカプサタマラサプサタラタラ」
Rさんが普通の言葉ではない言葉で祈り出した。
異言だ。異言そのものはお馴染みのものだったが、1回祈っただけでこんなにスムーズに異言を話した人はあまり見たことがなかったからちょっと驚いた。
「タマサクプラサプトクパキ、ほめよ、ほめよ、全能の主を、主は十字架につけられ復活し、天に昇り、聖霊を注ぎ、その支配は永久に、私たちを治めたもう…ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ!」
異言は霊歌になり、いつの間にか、Rさんは立ち上がって、両手をあげて賛美し出した。
僕はただ呆気に取られて見ていただけだった。