無意識さんとともに

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聖人A 62 熱心

僕とRさんが待ち合わせるのは、決まって、教会の御堂だった。

御堂の中心には、聖フランチェスコが街のはずれの崩壊した教会で見つけたという、裸のキリストが十字架にかけられているイコンが掲げられていた。

そこで、僕たちは、最初に1時間ばかり黙って祈る。

それから、教会の外の木製のベンチに移って、今度は声を出して祈る。

その後、ようやく、普通のデートに繰り出す。

ただ、そうしても、場所が変わっただけで、僕たちが話すのは、神様のこと、お祈りのこと、奇跡のこと、そんなことばかりだった。

Rさんは、異言を語り出してからというもの、そういうことにますます、日を追うたびに熱心になっていった。

僕も彼女の熱心さに煽られていたが、もうそれほどそういうことに夢中になれないものも自分の中にあった。

「昨日、こんな夢を見たのよ」

オムライスを食べるスプーンを止めて、Rさんは語り出す。

「どんな夢ですか?」

そう言いながら、僕はまたかと鼻白む。

「夢の中で、神様が片頭痛持ちのシスターを見せてくれて、そのシスターに会ったら臆せず祈りなさいと言うのよ」

「それで?」

「そしたら、次の日、夢のシスターそっくりのシスターに会ってね、ドキドキしたんだけど、思い切って、祈らせてもらったら頭痛が癒されちゃったの」

「よかったですね」

僕はもうオムライスを食べ終えていたので、セットのアイスティーをストローも使わずに一気に飲み干した。

「それでね、今度、シスターが私を修道院に招いてくれると言うのよ。佐藤さんも一緒に来ない?」

「男子禁制の修道院でしょう?いいんですか?」

「私と一緒なら大丈夫よ」

彼女は職についてなかったから、大学生だったが、僕がお会計を済ます。

修道院に行く約束の前の日、僕は御堂で会った伊勢崎さんからとんでもないことを聞いた。

「佐藤君、知ってる?」

「何ですか?」

「この間、M司教が来て行われた会があったでしょ」

「僕は出なかったので、会があることしか知りませんが」

「あそこで、Rさんはみんなの前で言ったのよ」

「えっ、何を言ったんですか?」

「あの罪のことよ」

彼女はスティグマとしか思えないあの罪のことをみんなの前で具体的に語った…らしい。「神様は、私の赦されないこんな罪を赦してくださいました」と涙ながらに。

「それでみんな、どんな反応なんですか?」

僕は、四谷にあまり行かなくなったとは言え、教会籍はI教会に置いている。それで、地元の教会内の活動にはほとんど参加していないから、そんなことはわからない。

「もちろん、M司教はベタ褒めだったんだけど、みんなは蜂の巣を突いたように大騒ぎよ」