無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 188 帰宅

12月24日、当日がやってきた。冬休みの1日目でもある。

僕は、午前5時に起きると、トーストとホットティーだけの簡単な食事を済ませた。それから、釘山さんのカラフルなレシピを脇に置いて見ながら、エビチリに取りかかる。

まずは、調味料を合わせておく。

僕は、この日のために、ちょっと奮発して、家にはない豆板醤や紹興酒などを買っておいた。

そして、エビの背わたを爪楊枝で引き出すように抜いていく。思ったよりも難しい。背わたがうまく抜けずに途中でちぎれてしまうこともあるが、やっているうちにコツがつかめたのか、だんだんと一発で抜けるようになった。

軽く洗って、下味をつけ、片栗粉をまぶす。これで準備は完成。

さあ、いよいよ、炒める番だ。

家にある使い込まれた鉄フライパンに油をひき、エビを炒める。

テレビで見た中華の料理人の気分だ。

ネギを入れ、豆板醤を入れると、いい匂いが鼻をくすぐる。

合わせておいた調味料を入れ、トロミが付いたら完成。

『よし、釘山さんのレシピ通り』

自分でもうまくいったと思う。試しに、味見をして見ると、ちょうどいい味加減に思える。

エビチリなんて、もちろん、家で出たことがないし、食べたこともないのでどれぐらいの出来なのかは判断できないけれども。

粗熱をとり、タッパーに入れ、パン屋の紙袋に入れた。

結構な重みがある、何だか、じわじわとくるものがある。

約束の時間までまだある。僕は念入りに洗い物をして、それから、自分の部屋に戻って、家を出るまで受験勉強をした。

この勉強も、大学に入った後、無限塾の講師になった時に教えるのに役立つかと思うとやっていて楽しくなる。

そうして、新書版の「試験に出る英文解釈」の本に没頭していたが、かけておいた目覚ましの音にハッとして、急いで家を出た。

久米川駅から清瀬駅南口へのバスに乗る。

ひとつひとつのバス停で止まるたびに、僕の心の中に懐かしい記憶が鮮やかに甦っていく。

そして、ついに、小6のお別れの時に僕たちがお互いに手を降り続けたバス停に着いた。

あの小屋があった病院前のバス停には、もうはまっちが立っていた。

「早かったね、待った?」

「ううん、そんなこともないわ」

「そうだ…メリークリスマス」

本当はクリスマスは25日なのかもしれないがとためらいを覚えつつ。

「メリークリスマス、うえっち」

はまっちとクリスマスの挨拶を交わせることに、しみじみした喜びを感じてしまう。

「なんかしみじみしちゃってない?」

「そうだね、いろいろ思い出しちゃって」

「確かにね」

「うん」

僕たちは、病院の正門の方を見た。

「あれがしたくならない?」

「あれって?」

僕は顔が赤くなった。

「やっぱりうえっちってえっちね。そうじゃなくて、あれ」

「あれって、全然思いつかないんだけど」

「ほら、小6の時にここで別れる時にしたでしょ」

「もしかして、ハイタッチ?」

「そうそう」

僕たちは、手をあげて、お互いの手に思い切りハイタッチした。

「ただいま」

「おかえり」

何だか、泣きそうになったが、はまっちの瞳にもきらりと光るものがあった。