それから、僕とはまっちは山下公園、赤レンガ倉庫を巡った。
そして、また、動く歩道に乗り、降りたところで右に折れた。
そこには、みなとみらいのシンボルだったコスモクロック、大観覧車がある。
「神奈川に住んでいたけど、コスモクロックに一度も乗ったことなかったな」
「そうなんだ、じゃあ、初めてだね」
「そう、初めてがうえっちというのは何だかうれしいな」
僕はちょっと恥ずかしい気持ちになったが、とにかく、コスモクロックがあるコスモワールドに入り、コスモクロックのチケットを買う。
係の人にチケットを渡し、金属の階段を上がり、順番がまわってきたゴンドラにふたりで乗り込み、向かい合わせに座る。
ゴンドラはゆっくりと回転し、横浜を一望する景色が眼下に広がっていく。
ゴンドラが頂上に達する前に、僕はがさごそと持ってきた鞄の中を探った。
そして、紙の筒を取り出した。
「はまっち、17歳の誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
「これは、僕からの心ばかりの誕生日プレゼント」
はまっちは僕が紙の筒を渡すと、不器用に結えられたリボンを丁寧に解き、紙を広げた。
そこに描かれていたのは、テーブルを向かい合わせに囲んで、はまっちと僕が談笑している姿。ふたりのテーブルの間には、イチゴが飾られた白い生クリームのケーキがあり、それぞれの隣のイスには、藤堂さんと福井君も座っている。
「私、こんなふうに笑ってるんだ、ほんとに幸せそうね」
「そうだね、あの時のイメージが心から離れなくて、それを絵に描いたらと思って、書いたんだ」
「でも、うえっちも私に負けないぐらい幸せそうだわ」
「そうだよ、すごく幸せを感じている」
僕はクリスマスの時のことなのか、今のことなのか、どちらとも取れる表現で答えた。
はまっちは、しばらく、絵を眺めいっていた。それから、裏をめくった。
『あなたと私の間は、遠くもなく、近くもなく、心地よい空気が流れる
あなたはあなたで、僕は僕で、
違っているのに、どこか似ていて、
あなたは行きたいところへ、僕も行きたいところへ、歩んでいるのに、
ふたりのリズムが重なる
それが何だかとてもうれしくて、幸せで、
無意識のなすがまま、ありのままのふたりで、自由の中、
風の中、それぞれのペースで流れていこう』
「素敵ね、ありがとう、うえっち」
「こちらこそ、ありがとう」
「変な言い方だけど、呼吸が楽になる、そんな幸せだわ」
「呼吸が楽になるそんな幸せ?」
「そう、こんな幸せがあるなんて思わなかった」
小学生の僕たちは誓い合いキスをしたが、今の僕たちはただお互いを見つめ合い、両手を取り合った。
ゴンドラが止まるまで、僕たちはただそうしていた。