無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 198 大晦日

それからの僕の生活は、過去の僕からしたら信じられないぐらい、退屈なくらいに平穏なものだった。

冬休み、同級生たちは、高2ともなれば、大学受験のために冬期講習に行く。

けれど、僕にはそんな経済的な余裕はない。

もちろん、無限塾でのチューターのバイト代を貯めたものから出そうと思えば出すことはできたが、一人暮らしをすることを考えるとそんなこともできない。

それに、僕自身、チューターとして冬休みは、毎日、無限塾に行く必要があったから時間的余裕もない。

そんな状況に、前の自分だったら、イライラしたりジリジリしたりしてしまうはずだが、そんな気持ちはどこからも出てこない。

僕は、ただ、自分の空いている時間で、自分のやれることをやるだけだった。

1回やり切った参考書や問題集のできないところを丹念に潰していく、かと言って完璧主義にならずに、重ね塗りをするように何度も何度も。

そうしているうちに、意識ではなく、無意識が学習をするようになって、僕は忘れるということが怖くなくなった。

はまっちのこともそうだ。

クリスマス以来、はまっちと会うことはもちろん、連絡を取ることもなかったが、それで特に不安になったりすることもない。

無関心というのでは全くない。

おそらく、前よりもはまっちのことが大好きな自分がいる。

それでも、自分は自分、はまっちははまっちという感覚がある。

僕たちは違っていていい、無理に合わせる必要もない、そうだからこそ、心を通わせることもできるのかもしれない。

僕は、淡々と、勉強と無限塾のバイトをこなしていった。

母はもちろん、今でも心に爆弾を投げ込んでくる。

そして、僕の心の中で爆弾が爆発することは当然ある。

でも、僕は自分を責めなくなった。

母が自分に何をしようと、それは母の問題であって僕の問題じゃない。

もう、僕は母に認めてもらう必要はない。

母に認めてもらおうとして、自分の人生を捨てて母の人生を生きようとすることなどできないし、ナンセンスなことだ。

母には母の人生を生きてもらうしかないし、僕は僕の人生を生きるしかない。

それだけのことだ。

そんなことを考えながら、僕は、後入れのカリカリとした食感の丸い天ぷらの入ったカップそばを食べる。

食べているうちに、除夜の鐘が鳴る。

もう、新しい年が明けていく。

僕の心も、ひと呼吸、ひと呼吸、新陳代謝を繰り返し、新しくなっていき、時折、ターニングポイントを迎えるように、全部入れ替わっていくのかもしれない。

まだ、見ぬ自分を楽しみにしながら、僕はそばをすする。