そんなふうにして、部屋に引きこもり続けた。
母も妹も、最初は、戸をどんどんと叩いて僕を部屋から引き摺り出そうとしたが、そのうち、もう諦めたようだった。
時折、布団から起き上がって、鏡を見てみると、気のせいなのか、それともリアルなのか、僕の顔は緑色に変色しているように見える。
『あまりにも太陽に当たらないせいかもしれない』
カーテンで覆って部屋の中に太陽の光が入らないようにしているだけではなく、昼間はライトさえつけずに部屋を真っ暗にしている。
暗闇の中で、ふと、ある人の顔が頭に浮かぶ。
『たっちゃん、今の僕はあの時のたっちゃんとそっくりだ』
僕はたっちゃんのようになりたいと思ったが、そっくりそのままたっちゃんの人生をコピーして今の状態になっているのかもしれない。
『神の呪い』、そんな言葉が浮かんでくる。
あれから、たっちゃんに会っていない。一体、たっちゃんはどうしているのだろうか?
『神の呪い?』
そうだ、僕がもうたっちゃんに一度きり会いに行っただけでその後行かなくなったのは、この言葉のせいだった。
僕がふと、牧師にたっちゃんに会いに行ったことを漏らした時、牧師は血相を変えて言った。
「佐藤君、もう決して会いに行っては行けませんよ」
「なぜですか?」
「神の呪いが伝染するからです」
「そんなことがあるんですか?」
「あるんです。信仰から落ちた、祝福を失った人は神に呪われているんです。そうして、そういう人に接触する人には、呪いが伝染するんです」
牧師は、その後も、主に旧約聖書の箇所をあげて僕にすごい勢いで説明した。
僕は、そんなことは到底、信じられなかったが、それでも、なんだか怖くなってもう二度とたっちゃんのところに行けなくなった。
だから、きっと、僕も信仰と祝福を失って、神に呪われているから、もはや誰も僕に会いにくる人などいるはずがない。
…
そんなことを、毎日、悶々と考えていたが、僕はさすがに、太陽の光を浴びたくなった。
そして…
母と妹がいない昼間に家を出た。
めまいがする。ふらふらとよろめきながら、パジャマの上にそのままジーンズと上着を身につけた、ぼさぼさの髪で歩く。
気のせいか、道行く誰もが僕を振り返る。
僕は、教会だけではなく、世界すべてから拒絶されているような気がしてならなかった。
久米川駅で、一駅分の切符を買い、本川越行きの電車に何とか乗り込む。
そうして、隣の東村山駅でドアが閉まる直前に降りる。
そうだ、僕はたっちゃんに会おうとしていた。
たっちゃんならば、たっちゃんならば、僕のことを分かってくれるかもしれない。