それから、僕たちは、今度は中華街に行って、お店を回り、3時になって小腹が空いて食べ歩きをした。
定番の大きな肉まんを買い、ふたりで分け合って食べた。
そうして、僕たちは帰途につき、秋津駅で別れた。
「じゃあ、また、明日。今度はうえっちの誕生日。期待しててね」
「うん、楽しみにしてるよ」
僕はそんな軽い感じの挨拶をして、改札口からホームに向かった。
明日があるってなんてうれしい事だろう、僕はそんなふうに初めて思ったのかもしれない。
『よかったじゃない』
心が向こうから話しかけてきた。
『心よ、ありがとう』
次の日、僕は、朝8時40分に秋津駅に行った。
自分ではずいぶん早く行ったつもりだったが、それでもはまっちはもう改札口の左に立っていた。
「おはよう、待ったのかな?」
「ううん、そんなことないよ。今、ついたところ」
昨日はポニーテールだったのに、今日は髪をほどいていた。首に巻いた赤と緑のタータンチェックのマフラーが、何だかよく似合う。
Pコートは変わらないが、下はスカートをはいている。
「なに、じっとみているのかな、君は?」
はまっちは、人差し指で僕のおでこを突く。
「そんなことないよ、見惚れたとかそんなことなくて」
「バレバレじゃん」
はまっちは快活そうに笑う。
「そっか、バレバレかも」
僕も照れ隠しに笑う。
「とにかく、行こう」
はまっちと僕は、商店街を抜け、住宅街の中に入る。
同じようなつくりの一軒家が立ち並んでいる。
その最中に、ちょっと古いアパートがあった。
黒い塗装の鉄製の階段を踏み鳴らしながら、上っていく。
ドアの前に、はまっちと立つと、ネームプレートに『田中』と書いてあった。
はまっちは当然のように、鍵をドアノブに差し込む。
そして、鍵をあけ、中に入ろうとしたが、僕に気がついた。
「そうか、びっくりした?父と母は離婚しているから」
離婚していることは知っていた。でも、はまっちは今も浜崎という姓を名乗っていた。そうか、離婚しても子供は前の姓のままなんだ。
「いや、そんなことはないよ」
ドアを開けると、すぐキッチンになっていて、奥に部屋がある。
僕は、ちょっと見回した。
「お母さんは?」
「今日は彼氏とデートに出かけているわ」
「そうなんだ」
「頑張ってと言われたわ」
はまっちに奥の部屋に導かれて、白木のローテーブルのところに座るように言われた。
何だか、少し喉が渇く。
さすがに女の子の部屋にいて、平然とはしてはいられない。
いや、佐伯さんや神楽坂さんのところに行ったことはあるのだから、この緊張ははまっちが自分にとって特別だということを表しているのだろう。