「その前に、サッチが作ってくれたケーキをみんなでいただこうかしら」
「そうね」
「じゃあ、切り分けてくれる、サッチ?」
「はい」
はまっちが、赤い苺がのった真っ白なケーキを真っ白なお皿に切り分けていく。
藤堂さんは紅茶をポットから注いでいく。
ひとりひとりの前に、ケーキと紅茶が揃った。
「あらためて、クリスマスおめでとう」
「メリークリスマス」
みんなが笑顔になって、僕はこの笑顔の中に確かに居場所があるのだと、実感した。
ケーキを一口、口に入れると、生クリームがさっと溶けていく。甘すぎないちょうどいい甘さ。マスカットのような香りの紅茶で口の中を洗うと、また、ケーキのフレッシュな味わいがよみがえる。
みんながおおかた食べ終えたのを見て、藤堂さんは言う。
「さて、それでは…」
「交換プレゼント!」
すかさず、はまっちが口を突っ込む。
「プレゼント持ってきてないよ」
「大丈夫、大丈夫。用意してあるから」
用意してあるのを交換して、交換プレゼントになるんだろうかとツッコミを入れたくなったが、そこは黙っておいた。
みな、赤、青、緑、黄でラッピングされた袋をひとつずつ持たされた。
「では、We wish you a merry Christmasの歌を歌って回します」
「最初の部分だけを3回ね」
We wish you a merry Chrismas
We wish you a merry Christmas
We wish you a merry Chirismas
And a happy new year
…
僕たちは歌っているうちに、調子に乗ってきて、手を叩いたり、体を揺らしたり、果ては何がおかしいのか笑い出したりしていた。
箸を転がしてもおかしい年代というけれど、僕たちは歌を歌ってもおかしい年代なのかもしれない。
そんなふうに思える日がやってくるなんてね、奇跡かもしれない。
僕たちは、回転寿司のレーンにのったお寿司を回すように、プレゼントを回し、3回歌ったところでプレゼントをストップした。
「さあ、プレゼントのお披露目タイムで〜す」
はまっちがふざけながら言う。
僕は、自分のところに来た緑の包みを開けると、パーティグッズ?
禿げたかつらと、鼻がくっついたメガネと、ちょび髭の付け髭が入っていた。
「うえっち、大当たり!じゃあ、つけて、つけて」
「しかたないなあ」
僕がつけると、はまっちは僕の顔を見て笑い転げる、涙まで流して。
「そんなにおかしいの?」
「うん、おかしい。怜ちゃん、福井君、うえっちどう?」
「そうね、とても似合っていると思うわ」
「なんだか、コメディアンみたいですね」
そう言われたら覚悟を決めるしかない、小学校の時、流行っていた一発芸を披露して見せた。
はまっちだけでなく、藤堂さんや福井君まで笑っている。
やった、大成功だ。
「ところで、はまっちは何だったの?」
「私はね、サングラス!」
こちらが何を言わなくても、はまっちはサングラスをかけてモデルみたいなポーズを決めて見せた。
「どう?」
「なんだか、小さい子が大人に見せようとしているみたいで…かわいらしい」
「何それ、失礼ね」
はまっちは頬をぷーっと膨らませたが、ますますかわいらしくなった。
『ほんとは、もう十分、大人に見えるよ』という言葉が心に浮かんだ。
藤堂さんはティアラ、福井君はロビンフッドのつけていそうな帽子と弓が入っていて、それぞれがつけて見せてくれた。
意味はわからないけれど、それぞれにぴったりのものが来たのかもしれない。
まあ、僕のは例外だと思いたいが。