次の日曜日、田中君と成島君は、姿を見せなかった。
仕方なく、私はいつものカラオケの部屋で藤堂さんと二人きりで礼拝をしたが、なんとなくバツが悪かった。
終わってから、田中君の携帯にかけた。午前中にかけた時は繋がらなかったが、今度は一回のコールで繋がった。
「あっ、もしもし、田中君」
私はいつの間にか、田中兄弟という言い方ではなく、田中君というふうに自分が呼んでいることに気づいた。
「神崎さん」
向こうも私のことを神崎兄弟ではなく、神崎さんと呼んだ。
「今日はどうしたの?」
そう言いながら、来るも来ないも彼の自由なのだから、自分があえておかしなことを言っているようなそんな気になる。
「それで、お話があります。成島兄弟もここにいるので、これからそちらに行ってもいいですか?」
「うん、まあ。いいよ。藤堂姉妹もいるけど」
「それはかえって好都合です。姉妹にも私たちの話を聞いてもらいたいので」
私たちは、いつものファミレス、カラオケの先の通りの右側にある、チェーン店にしては聞いたことのないマイナーな名前の店で午後2時に待ち合わせた。
何だか胸騒ぎがしてならなかった。
今日もまた、藤堂さんと二人きりで、そのファミレスでランチをしながら、彼らを待った。
「話ってなんだろうね?」
「大したことじゃないんじゃないですか?」
「私は彼らのことはあまりよく知らないから」
「私は付き合いが長いですけど、田中兄弟も成島兄弟もそんなに複雑に物事を考える人じゃないので、大丈夫だと思います」
「そうなんだ、じゃあ、大丈夫かな」
私は窓の外を見つめた。ここは学生街なので、日曜日になると、かえって人通りが多いとは言えない。
「特に、成島兄弟とは、私、婚約していたので、彼の考えることはよくわかります」
私は、思わず、藤堂さんの方に視線を向き変えた。
「婚約していたって?」
「そうです、婚約していた、つまり過去のことです」
何でもないことのように、藤堂さんは言って、ストローで、ミルクもガムシロップも入っていないストレートのアイスティーを一口、飲む。
「そうなんだ」
私にはそれ以外の言葉は頭には浮かばない。
「婚約破棄の理由が、私の胸が小さいからって…笑っちゃいますよね」
えっ、そんなことが理由なのと思わず聞き返してしまいたくなったけれども、そんな言葉を胸の奥に押し込んだ。
「それはまた、おかしな話だね」
私は、急に藤堂さんの存在が生々しく感じられて、また、目を逸らした。
そうして、店の入り口の方に視線があった時、背が飛び抜けて高い田中君と黒縁メガネで少し猫背の成島君の姿が目に入った。
私は以前のように手を振ったが、彼らが以前のように私に手をふり返すことはなかった。