無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 38 出会い

とある郊外の駅で待ち合わせをした。

何でも郊外の駅の方が、カラオケ店の料金も安く、空いていて、礼拝するには都合がいいということだった。

改札を出て、エレベーターを使って地上に出る。

わざわざ、エレベーターを使ったのは、ちょっと眩暈がしたからだ。

相変わらず、鬱は良くなっていない。良くなっていないどころか、悪くなっているかもしれない。

この日曜日が来るまでも、ほとんど外出はしていない。

そんなことを自分ひとりしかいない金属の箱の中で考えながら、ドアが開く。

眩しい光に目が一瞬眩む、それにすぐ目が慣れると、出てすぐ右側にビルがある。

一階から四階までが大型書店になっていて、五階にカラオケが入っていると聞いている。

その入り口が待ち合わせの場所だ。

まだ、来ていないようだった。

書店で時間を潰そうかとも思ったが、約束の時間まであと5分しかない。

何だか、喉が渇く。

私は、ペットボトルをショルダーバッグから出して、緑色の液体を飲み下す。

『スパイのお前が、そんな人たちに会う資格があるのか?』

そんな声が内側から鳴り響くが、私は急いで振り払った。

エレベーターのドアが何度か、開いたり閉じたりする。

ここは、大学がいくつかある街なので、それらしい男女が何組かドアから姿を現す。

そんなことが何回か繰り返された後に、「神崎兄弟」といきなり男性の声がした。

見ると、身長が180センチはあろうかと思われる痩せ型の青年がひとり、中肉中背の、メガネをかけた青年がもうひとり、色黒で静かに微笑んでいるスリムな女性がひとり、こちらに向かってきた。

「お久しぶりです」

彼らは、入学したての小学生のように声を揃えてそう言うが、私の方は一向に彼らが誰か思い出せそうにない。

もちろん、見たことのあるような気はしなくはない、けれど、それにしても、全く名前が浮かんでこないのはどうしたことだろうか?

鬱で脳が萎縮してしまったのだろうか?

そんなことを思っていると、そんな私のことを察したのか、彼らはひとりひとり自己紹介を始めた。

「思ったより元気そうで何よりです、私は田中です」

痩せ型の青年が言う。

「前に祈り会でペアで祈らせてもらった成島です」

メガネを光に反射させて言う。

光ちゃんはお元気ですか?藤堂と言います」

笑みを絶やさないで女性が言う。

『光』というその言葉に、私の脳髄はぴくりと反応する。

「光を知っているんですか、藤堂姉妹?」

「ええ、光ちゃんとは時々メールでやりとりしています」

そうか、そういうわけなのか。