とある郊外の駅で待ち合わせをした。
何でも郊外の駅の方が、カラオケ店の料金も安く、空いていて、礼拝するには都合がいいということだった。
改札を出て、エレベーターを使って地上に出る。
わざわざ、エレベーターを使ったのは、ちょっと眩暈がしたからだ。
相変わらず、鬱は良くなっていない。良くなっていないどころか、悪くなっているかもしれない。
この日曜日が来るまでも、ほとんど外出はしていない。
そんなことを自分ひとりしかいない金属の箱の中で考えながら、ドアが開く。
眩しい光に目が一瞬眩む、それにすぐ目が慣れると、出てすぐ右側にビルがある。
一階から四階までが大型書店になっていて、五階にカラオケが入っていると聞いている。
その入り口が待ち合わせの場所だ。
まだ、来ていないようだった。
書店で時間を潰そうかとも思ったが、約束の時間まであと5分しかない。
何だか、喉が渇く。
私は、ペットボトルをショルダーバッグから出して、緑色の液体を飲み下す。
『スパイのお前が、そんな人たちに会う資格があるのか?』
そんな声が内側から鳴り響くが、私は急いで振り払った。
エレベーターのドアが何度か、開いたり閉じたりする。
ここは、大学がいくつかある街なので、それらしい男女が何組かドアから姿を現す。
そんなことが何回か繰り返された後に、「神崎兄弟」といきなり男性の声がした。
見ると、身長が180センチはあろうかと思われる痩せ型の青年がひとり、中肉中背の、メガネをかけた青年がもうひとり、色黒で静かに微笑んでいるスリムな女性がひとり、こちらに向かってきた。
「お久しぶりです」
彼らは、入学したての小学生のように声を揃えてそう言うが、私の方は一向に彼らが誰か思い出せそうにない。
もちろん、見たことのあるような気はしなくはない、けれど、それにしても、全く名前が浮かんでこないのはどうしたことだろうか?
鬱で脳が萎縮してしまったのだろうか?
そんなことを思っていると、そんな私のことを察したのか、彼らはひとりひとり自己紹介を始めた。
「思ったより元気そうで何よりです、私は田中です」
痩せ型の青年が言う。
「前に祈り会でペアで祈らせてもらった成島です」
メガネを光に反射させて言う。
「光ちゃんはお元気ですか?藤堂と言います」
笑みを絶やさないで女性が言う。
『光』というその言葉に、私の脳髄はぴくりと反応する。
「光を知っているんですか、藤堂姉妹?」
「ええ、光ちゃんとは時々メールでやりとりしています」
そうか、そういうわけなのか。