無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 52 袋小路

私たちは、いつものように、礼拝をする。

一度、祈り出して始めると、半ば自動的に礼拝は進んでいった。

そうして、終わると、やはり、いつものファミレスに行ってランチを食べる。

あんなことがあったからなのか、何だか藤堂さんを意識して、言葉が出てこない。

何かを言おうと思うと、思わず赤面してしまう。

藤堂さんもやはり同じようだった。

会話がないまま、同じ窓際の席で、通行人を見つめていた。

けれど、意を決したように、藤堂さんが口を開いた。

「来週は…」

「えっ、何?」

「来週は、神崎さんと私で」

「うん」

「ふたりきりで礼拝するのではなく」

心臓が鷲掴みされたように、ぎゅっと痛くなった。

「他の教会に行ってみませんか?」

「…そうかもしれない」

「駅の反対側のビルに新しい教会ができていて」

「そうなんだ」

私たちは、来週はいつものカラオケの入っているビルの前で待ち合わせて、宣教師の開拓しているという教会に行ってみることにした。

 

その日は、太陽がものすごく眩しく感じられる日だった。

冬なのに、かなり暖かった。

そのせいか、藤堂さんもキャメルのコートは羽織っていず、代わりにGジャンを身につけていた。

私たちは、駅の反対側の、公園に続くまっすぐな通りを、並んで歩いた。

教会のある小さなビルは、右手の、もう公園に近いところにあるらしい。

藤堂さんは、私が知り合って以来、こんなことはあったかと思えるほどの上機嫌だった。

軽い冗談さえ、口にした。

私もその冗談に応じて、思わず笑ってしまったほどだ。

二人で、歩道の石畳を、藤堂さんは右側に、私は左側に歩いていたが、すぐに、お目当てのビルが見えてきて、ビルの入り口には、数人の人がたむろしていた。

彼らの醸し出す雰囲気で、クリスチャンと分かったのか、藤堂さんは声をかけた。

「〇〇クリスチャンセンターの方ですか?」

「ええ、あなたたちは初めてですか?」

ポニーテールの、若い女性が答えた。

「はい、クリスチャンなんですが、ここは初めてです」

「さあ、どうぞ。教会は2階ですから」

その女性は私たちを案内して、ひとりしか通れないぐらいの階段を上り、『〇〇クリスチャンセンター』と二行にわたって白いプラスティックのプレートが付けられ、灰色に塗られた鉄の扉を開けた。

すぐに、ギターのかき鳴らす音が耳に飛び込んでくる。

メガネをかけた60代ぐらいの上品な外国人の女性が、さっと駆け寄ってきて、私たちに手を差し伸べる。

「ようこそ、〇〇クリスチャンセンターへ」

右手を、最初は藤堂さんに、次に私に差し伸べられたので、私たちは順々に握手をした。