私たちは、いつものように、礼拝をする。
一度、祈り出して始めると、半ば自動的に礼拝は進んでいった。
そうして、終わると、やはり、いつものファミレスに行ってランチを食べる。
あんなことがあったからなのか、何だか藤堂さんを意識して、言葉が出てこない。
何かを言おうと思うと、思わず赤面してしまう。
藤堂さんもやはり同じようだった。
会話がないまま、同じ窓際の席で、通行人を見つめていた。
けれど、意を決したように、藤堂さんが口を開いた。
「来週は…」
「えっ、何?」
「来週は、神崎さんと私で」
「うん」
「ふたりきりで礼拝するのではなく」
心臓が鷲掴みされたように、ぎゅっと痛くなった。
「他の教会に行ってみませんか?」
「…そうかもしれない」
「駅の反対側のビルに新しい教会ができていて」
「そうなんだ」
私たちは、来週はいつものカラオケの入っているビルの前で待ち合わせて、宣教師の開拓しているという教会に行ってみることにした。
その日は、太陽がものすごく眩しく感じられる日だった。
冬なのに、かなり暖かった。
そのせいか、藤堂さんもキャメルのコートは羽織っていず、代わりにGジャンを身につけていた。
私たちは、駅の反対側の、公園に続くまっすぐな通りを、並んで歩いた。
教会のある小さなビルは、右手の、もう公園に近いところにあるらしい。
藤堂さんは、私が知り合って以来、こんなことはあったかと思えるほどの上機嫌だった。
軽い冗談さえ、口にした。
私もその冗談に応じて、思わず笑ってしまったほどだ。
二人で、歩道の石畳を、藤堂さんは右側に、私は左側に歩いていたが、すぐに、お目当てのビルが見えてきて、ビルの入り口には、数人の人がたむろしていた。
彼らの醸し出す雰囲気で、クリスチャンと分かったのか、藤堂さんは声をかけた。
「〇〇クリスチャンセンターの方ですか?」
「ええ、あなたたちは初めてですか?」
ポニーテールの、若い女性が答えた。
「はい、クリスチャンなんですが、ここは初めてです」
「さあ、どうぞ。教会は2階ですから」
その女性は私たちを案内して、ひとりしか通れないぐらいの階段を上り、『〇〇クリスチャンセンター』と二行にわたって白いプラスティックのプレートが付けられ、灰色に塗られた鉄の扉を開けた。
すぐに、ギターのかき鳴らす音が耳に飛び込んでくる。
メガネをかけた60代ぐらいの上品な外国人の女性が、さっと駆け寄ってきて、私たちに手を差し伸べる。
「ようこそ、〇〇クリスチャンセンターへ」
右手を、最初は藤堂さんに、次に私に差し伸べられたので、私たちは順々に握手をした。