無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 13 悪目立ち?

「おはようございます、神崎兄弟」

あちらこちらから声がかかる。そのたびに、私は光を教会の人たちに紹介する。

私は光が受け入れられないんじゃないかと思っていたが、そんな予想とは違って、年輩の人たちは孫でも見るかのように目を細めて手を差し出し、若い女性たちは光と挨拶のハグをしている。

ただ、そんな温かい雰囲気に包まれて安心してしまったその時に、急に向こうから冷たい一陣の風が通り抜けるのを感じた。

目をあげると、痩せぎすの、黒縁の眼鏡に、黒いスーツを着た牧師が来るのが見えた。

そこにいた人たちがフリーズしたかのように、急に動きも話も止めた。

「川辺先生、おはようございます」

川辺先生は、右手で眼鏡の端を摘んであげる。

その動きを見ると、私の胃が何だかヒクヒクした。

「神崎兄弟、おはよう」

「おはようございます、川辺先生」

「そちらにいるのは…妹さん?」

先生はちょっと怪訝な顔で光に眼差しを投げかける。
「いいえ、私は川辺さんとお付き合いしています。大江と言います」

さらに、光の服装をじろじろと眺めてくる。

「あなた、クリスチャン?」

「はい、三重のグレープヤードチャーチで賛美リーダーをしています」

「ああ、三重のグレープヤード、あそこね」

「知っていらっしゃいますか?」

「うん、まあ。いろいろな意味で有名だから。それで、お付き合いしてるってずいぶんと若いね」

光は実際の歳よりもずっと若く見えた。

「ありがとうございます、いつも若く見られるんです」

光は何を勘違いしたのか、そんなことを言う。

「まあ、礼拝を楽しんでいってください」

そう言って、牧師は去っていった。

モノクロの群れは色を取り戻し、何事もなかったように、それぞれが木の長椅子に座った。

私と光も、真ん中あたりの席に座った。

「ずいぶん、牧師先生、カチッとした人なのね。テープで聞いている岩本先生とは大違いだわ」

「よせよ、聞こえるだろ」

私は、周囲を見回して言った。
息をつく間もなく、前奏のオルガンの音が鳴り響き、礼拝が始まった。

横を見ると、光が目を丸くしている。

『そりゃそうだ、同じカリスマ派と言っても、こちらは伝統ある教会。アメリカナイズされた、ロックコンサートのような礼拝とは違うさ』

私は、心の中だけでつぶやいた。
私たちは、立ち上がって、聖歌を歌い出す。
光は慣れていないせいか、最初こそ戸惑っていたが、さすがに賛美リーダー、そのうち素晴らしい歌声で歌い出した。

周りの視線が光に注がれる。
そんなことを繰り返し、牧師の説教の時間になっていった。