無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 36 同級生?

私は、今までのことをすべて、包み隠さず話した。

母教会でのこと、光のこと、牧師と光の対立、そして牧師にスパイをさせられたこと、鬱の発症…と。

ヨシコ先生はただ黙って頷いているだけだったが、まるで砂地に水が吸い込まれていくように、私の言葉はどんどんとヨシコ先生の心の中に姿を消していった。

私の話がひとしきり終わると、もう部屋は暗くなっていた。

ヨシコ先生は明かりもつけずに言った。

「智昭さん、あなたの苦しみは私にもわかります」

それは何よりも重い言葉だった。たとえ、世界中の言葉が嘘偽りだとしても、この言葉だけは本当なんだろう。なぜなら、ヨシコ先生が苦しみをまた味わったのは、先ほどのことなのだから。

けれども、ヨシコ先生の中に、痛みは感じられなかった、少なくとも私には。

ヨシコ先生は立ち上がって、部屋のライトのスイッチをパチンと押した。

まぶしい光が目に入ってきた。

「まぶしいわね」

そう言いながら、ヨシコ先生は笑う。目尻の笑い皺が光に浮かび上がる。

「そう言えば、ひとつ聞きたいことがありました」

「なあに?こんな機会ももうないから、何でも聞いてちょうだい」

「ヨシコ先生は、20代ですか?」

私は少し、また胸に痛みを感じながら、言った。

「そんな訳ないじゃない。もう35よ」

「35?そうなんですか?私と同級生ですね」

私は同窓会でクラスメートに会ったような調子で言った。

「そうなんだ、智昭君と同級生だったわけね」

それから、私たちは、本当の同級生のように、教会には似つかわしくない、どうでもいい話をしばらくした。

時間もだいぶ遅くなった。

私は礼を言って立ち去ろうとした。

「そう言えば、私たちは、もう今週にここを出て行かなければならないの。神戸に行くことになるわ」

「そうですか」

私は心を読み取られないように、わざと平静を装った声で言った。

「短い間だったけど、あなたと会わせてくれた神様に感謝しているわ。あなたが幸せであるように、いつも祈っているわ、智昭君、同級生としてね」

ヨシコ先生は、また笑い皺を浮かべながらそう言った。

「僕もそう祈っています」

何だか、いきなり、僕なんて言葉が口から出たのは、ここが本当に高校の教室で、僕たちが同級生だと心から感じられたからなんだろうか?

私は、ヨシコ先生たちを見送りに行くことはなかった。

次の日曜日、私はオアシス・クリスチャンフェローシップの前を、知らない人のようにして通りかかると、あのアロハシャツの男が司会をし、高木さんがしかめつらしい顔でメッセージしていた。
私は、教会のドアをくぐることはなかった。