私は、今までのことをすべて、包み隠さず話した。
母教会でのこと、光のこと、牧師と光の対立、そして牧師にスパイをさせられたこと、鬱の発症…と。
ヨシコ先生はただ黙って頷いているだけだったが、まるで砂地に水が吸い込まれていくように、私の言葉はどんどんとヨシコ先生の心の中に姿を消していった。
私の話がひとしきり終わると、もう部屋は暗くなっていた。
ヨシコ先生は明かりもつけずに言った。
「智昭さん、あなたの苦しみは私にもわかります」
それは何よりも重い言葉だった。たとえ、世界中の言葉が嘘偽りだとしても、この言葉だけは本当なんだろう。なぜなら、ヨシコ先生が苦しみをまた味わったのは、先ほどのことなのだから。
けれども、ヨシコ先生の中に、痛みは感じられなかった、少なくとも私には。
ヨシコ先生は立ち上がって、部屋のライトのスイッチをパチンと押した。
まぶしい光が目に入ってきた。
「まぶしいわね」
そう言いながら、ヨシコ先生は笑う。目尻の笑い皺が光に浮かび上がる。
「そう言えば、ひとつ聞きたいことがありました」
「なあに?こんな機会ももうないから、何でも聞いてちょうだい」
「ヨシコ先生は、20代ですか?」
私は少し、また胸に痛みを感じながら、言った。
「そんな訳ないじゃない。もう35よ」
「35?そうなんですか?私と同級生ですね」
私は同窓会でクラスメートに会ったような調子で言った。
「そうなんだ、智昭君と同級生だったわけね」
それから、私たちは、本当の同級生のように、教会には似つかわしくない、どうでもいい話をしばらくした。
時間もだいぶ遅くなった。
私は礼を言って立ち去ろうとした。
「そう言えば、私たちは、もう今週にここを出て行かなければならないの。神戸に行くことになるわ」
「そうですか」
私は心を読み取られないように、わざと平静を装った声で言った。
「短い間だったけど、あなたと会わせてくれた神様に感謝しているわ。あなたが幸せであるように、いつも祈っているわ、智昭君、同級生としてね」
ヨシコ先生は、また笑い皺を浮かべながらそう言った。
「僕もそう祈っています」
何だか、いきなり、僕なんて言葉が口から出たのは、ここが本当に高校の教室で、僕たちが同級生だと心から感じられたからなんだろうか?
私は、ヨシコ先生たちを見送りに行くことはなかった。
次の日曜日、私はオアシス・クリスチャンフェローシップの前を、知らない人のようにして通りかかると、あのアロハシャツの男が司会をし、高木さんがしかめつらしい顔でメッセージしていた。
私は、教会のドアをくぐることはなかった。