「えっと、智昭さん。教会員ではないですが…そうですね…教会員ではない人の意見も聞くといいかも知れませんね」
私は人をファーストネームで呼ぶのには慣れていないが、高木さんは私をそう呼んだ。
私はおずおずと立ち上がった。
「知り合いが(光のことだ)、グレープヤードに行っているんですが」
そこまで言いかけたところで、さらにそこにいる人たちの雰囲気が悪くなった。
けれど、私はそこまで言って言葉の流れを止めることもできずに続けてしまった。
「グレープヤードでは、神様の奇跡を求める信仰はごく当然のものと教えられています」
牧師夫妻とごく少数の人たちを除いて、私を見つめる目に怒りが感じられた。
アロハシャツを着た先ほどの男性が、ガタンと音をさせて立ち上がった。
「お前、本気でそんなことを言っているのか!」
言葉が、次から次へと、心臓を抉る。
「どういうこと…ですか?」
私は喘ぐようにして、何とか言葉を押し出した。
「知らないのか!グレープヤードは、元々、アメリカで〇〇チャーチの流れだったんだよ。それが現代にも神の奇跡があるとか言い出して、教会を分裂させて出ていったんだよ」
…
「すみません、知りませんでした」
呼吸ができない、パニック発作の前兆だ。私は必死に心と体の動揺を抑える。こんなタイミングで発作を起こしたら、ここにいる人にどれだけ迷惑をかけることになるのかわからない。
自分を両腕で抱きしめるようにして呼吸を整えていると、何とか、発作がおさまったかのように思えた。
私は、何とか、目をあげた。空間が歪んで見える、そこにいる人たちの顔も何もかもが。
怖くてたまらないが、どうしようもない。
壁に潰された虫として、羽をばたつかせるのがやっとのことだ。
「こんな話をしていても埒があかない、単純に多数決をして決めよう。牧師の路線に賛成な人?」
アロハシャツがそう言った。手をあげたのはヨシコ先生と綾瀬さん、他に2、3人のみ。
「では、今までの聖書中心の、〇〇チャーチの流れでいきたい人?」
そこにいる人たちのほとんどが手をあげた。司会の高木さんでさえ、すまなそうに牧師の方を見ながらも、手をあげた。
「これで決まりだな。先生はどうするよ?」
男はますますぞんざいな言葉になってきている。
「そうですね、私たちは出て行くしかないようですね」
「そうだな、できればそんなカルト信仰は捨てて残ってもらいたいものだが、そんなカルト信仰を持ったまま、ここにいてもらってもどうしようもない」
男は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
その笑みを見た瞬間、空間がクニャッと曲がって、私はブラックアウトした。