無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 14 対決

黒スーツで黒メガネの牧師は説教を始めた。

「今日の聖書の箇所で、主イエスの兄弟やコブは言っています。

『主に義とされる(正しいものと認められる)のは、信仰だけではなく行ないにもよるのだ』と。

この教会は、先先代の牧師によって、信仰による義を重視して教えられてきました。

それは間違ってはいません。

けれども、ヤコブはそれだけでは違うと言っているのです。

行いもまた、神様に認めてもらうのには大切だと言っているのです。

信仰による義を強調するのは、いわば、赤ちゃんにミルクを与えるようなものです。

行ないによる義は、噛み砕く力のある大人のための食物です。

私たちは、いつまでも赤ちゃんのままでいることはできないのです。

ただ、『信仰のみ、恵みのみ』と言って喜んで何もしないでいるなら、それは違うのです。

きちんと教会生活を送り、奉仕をし、10分の1献金をし、伝道をしていかなければなりません」

説教を聞いている人たちの中に、特に年配の人たちの中に、大きな波のようなものが蠢いているのが感じられた。

そう思ったのは、私自身もそう感じているからに違いない。

すると、音がして、私の左隣にいた光が立ち上がっていた。

牧師は何が起こったのかという表情で、光を見つめる。

光も目を見開いて牧師を見つめる。

「違います、川辺先生」

「えっ、何を」

「違うんです、あなたの言っていることは岩本先生の信仰とは違います」

みんなは当然のごとく沈黙していたが、私には心の中で拍手しているようにも感じられた。

「何を言うんだ?」

牧師はいつの間にか、顔を紅潮させて言う。

「岩本先生なら、『人間の努力ではなく、神が与えてくださった信仰のみが、知らない間に、良き行いをも生み出す、だから私たちは何も心配しないでいいのです』とおっしゃるでしょう」

拍手する声が聞こえた、そちらの方を見ると、岩本先生の秘書役をしていた方だった。

「そんなことはわかっている」

「わかっているなら、さっきのようなことはおっしゃらないはずです」

「…出ていけ、ここからさっさと出ていけ、そんな淫らな格好で来て、この教会はお前の来るところじゃない」

「そうですか、それなら出て行きます」

光は、さっさと出口に向かって一直線に走り出した。

私も、何も考えられずに、光の後を追いかけた。

背中の後ろでは、人々のざわめく声が聞こえた。

私の悪い予感が現実になってしまった。

背中からとめどなく、冷や汗が流れて止まらなかった。