私はあの黴臭い牧師室にまた呼ばれた。
私から報告を聞くためだった。
「何か、彼らは話していたかね」
私は肝心なこと、つまり、岡田姉妹からの提案を除いて、どうでもいいことだけ正直に話した。話しながらも、牧師に心が読み取られるのではないかと胃がキリキリ痛んだ、途中で額にかいた汗を拭ったが、そんな動作さえ不自然に見えるのではないかと心配になった。
「いいかね、私を裏切ったらどういう目に遭うか覚えておくがいいよ」
「…」
「神の立てられたものに逆らうものは永遠に呪われる…のだよ」
牧師はふふッと笑みをこぼした。
私はよろよろと拷問室から解放されたように出た、平日の夜なので、教会堂は誰もいず、ただただ真っ黒なとばりがかかっているだけだった。
その闇の深さを思ってしまうと、体がぶるっと震えるのだった。
そんなことを何度となく繰り返すうちに、あの有名講師の聖会が長野で開かれたのだった。
もちろん、私は牧師とのことを誰にも、光にも言っていなかった。
そうして、案の定、光は聖会に来たいと言う。
私は、できれば来ないで欲しいと言いたかったが、電話の向こうで、有名講師の按手(手を頭に置いて祈ること)を受けられると聞いて舞い上がる光にそんなことは言えない。
会合の前日、私はひと足先に、牧師とともにホテルに入った。
そうして、有名講師の部屋で、他の牧師たちと共に、按手にあずかったのだった。
そのことを光に隠しておきたいと思ったが、勘の鋭い光に、私の日程やら何やらを聞かれてしまうと、隠しておけなかった。
「いいなあ、ともちゃんは特別扱いされて。私も絶対、按手してもらうから」
そうして、会場で、光に嫉妬されて肘鉄を食わされるあの出来事が起こったのだった。
…
種崎兄弟を始め、教会の人たちはそんなことをさして気にもとめていないようだった。
みんな、むしろ、光が牧師に面と向かって立ち向かった以前のことを買っていて、光の味方のようだった。
ただ、当たり前のことだが、牧師だけは違った。
種崎兄弟とコーヒーを飲んでいるその部屋のドアを誰かがいきなりノックした。
私が開けると、佐藤姉妹が立っていた。
少し顔色が悪く見える。
「牧師が呼んでいますよ、光ちゃんも一緒にだって」
私はすぐに廊下に飛び出して、光の部屋に向かい、光を連れて、牧師の部屋に向かった。
エレベーターに乗り、ボタンを押す。
牧師の部屋は、ホテルの一番上の階にある。
光もさすがに何かを察したようで、エレベーターの中でも何も言わずに俯いている。
私たちは、私を前に、光を後にして、牧師の部屋の前に来て、ノックをした。