無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 16 茶番

岡田姉妹は、光と私の横に腰を下ろすと、光の肩に置いて、話を続けた。
「お分かりのとおり、教会の大部分の人は、一部の若い人を除き、牧師先生の今のやり方に不満を抱いているのです。
ですから、光さんがああいうふうに言ってくださって、私以外の多くの人も本当に拍手したかったことでしょう。
みんな、光さんに感謝しているのです」

光はちょっと顔を上げて、息をフーッと吐いた。

「それでも、聖書で神様が言っているように、牧師がどんな人であっても、神様の立てられた油塗られた指導者に逆らうことは赦されていません」

光は涙で濡れた顔をまた曇らせた。

「けれども、私は、牧師に代わって光さんに謝罪させてください。

どうか、牧師先生のこと、特に、牧師先生が光さんに言ったあの言葉を赦してください。
簡単に赦すようなことではないと思いますが、ただ、キリストの流された血のゆえに、お赦しください。
牧師先生も、私たちも罪びとに過ぎないのですから」

岡田姉妹は泣いていた。
光もそれにつられたのか、また泣き出した。
2人は黙ってハグしあっていた。
それを見ている私は、自分が一滴も涙が出ないことに驚いていた。
キリスト教的には、これは正解であり、美しい光景に違いない。
でも、何か、心のどこかで何だかおかしい気がする。
そんな気がしてならない。

光は、飛び出してきた教会に戻ると言う。
私は、そんな気が到底しなかったが、岡田姉妹と光が歩き出したので、その後をついて行かざるを得なかった。
教会に着くと、もう礼拝は終わって、昼食の準備がされていた。
私たちを見ると、多くの人が、特に歳のいった人たちが心配そうにやってきた。
何も言わないけれど、光の手を握る人もいた。
そうして、川辺牧師がやってきた。
「大丈夫かな。僕もみんなも心配したよ。そう、僕も言い過ぎたよ。ただ、大江さん、質問がある時は、礼拝後にね」
「申し訳ありませんでした、川辺先生。お赦しになってください」

「いや、何とも思っていないから」

光はおずおずと震える手を差し出した。
けれども、その手を牧師が握り返すことはなく、そのままスッと向こうに行ってしまった。
そのことに気づいたのは、私だけだったのかどうかわからない。

ただ、光は青ざめていた。

青ざめながら、必死にクリスチャンらしく振る舞おうとしているのが見てとれた。
それを見ていると、何だかとてつもなく馬鹿馬鹿しくなって、私も大声を上げて、「こんな卑怯な茶番はやめろ」と叫び出したくなった。

けれど、私も卑怯なものたちの一味だと気づいて、自分を堪えるしかなかった。