最初は有給を消化していって、その次に、私は休職することになった。
「どこか、他の教会に行ってみたらいいんじゃない?礼拝に出ないと力が出ないよ」
そんなふうに、電話で光は呑気なことを言う。
だから、安全そうな他の教会を探し、日曜日に、鉛のように重い体を引きずって行ってみた。
海が見える駅のある教会。
そこもプロテスタントのカリスマ派の教会によくあるように、いわゆる教会の建物ではなくて、まるでカフェのような感じだった。
来ている人はTシャツにジーンズをはいていて、脱力したオープンな感じ。
牧師も同じような格好で、礼拝中もイスについた小さなテーブルにコーヒーやクッキーがサーブされ、みんな、コーヒーを飲み、クッキーを食べながら、牧師のメッセージを聞く。
来ている人も、日本人が半分、外国人が半分といった具合だった。
だから、お祈りも英語でなされたり、聖書朗読も日本語と英語の両方で読まれる。
『ここならば、やっていけるかもしれない』
私はふーっと息を吐いた。
すると、隣にいる、背が高く金髪でがっしりした男性が、私の方を見て、微笑む。
礼拝が終わると、その男性は私に話しかけてきた。
「教会は、初めてですか?」
見た目は外国人なのに、日本人としか思えない流暢な日本語でそう言う。
「いいえ、クリスチャンです」
「どこの教会に行ってらっしゃるんですか?」
「⚪︎⚪︎教会です」
「おお、私、そこの教会に行ったことあります」
急に、流暢な日本語が外国人っぽい言い方になったなと思った瞬間、右の脇腹が刺すように痛くなり、さらに、背骨がくにゃっと折れ曲がるように感じた。
『呼吸ができない』
私は耐えられなくなり、その場にうずくまり、さらにそれさえもできなくなって、床に倒れ込んでしまった。
多くの人が集まってきて、私に視線を注いでいるのを感じたが、どうすることもできない。
呼吸ができない、いや、呼吸はすごい速度でしているのだが、空気が肺に入っていかない。
体が冷たくなって、冷や汗が流れる。
「神様、この青年にあなたの癒しの手を差し伸べ、どうぞ、癒してください」
私の体に手があてられて、祈られているその声が、断続的に耳に入る。
このままだと、意識がブラックアウトしてしまう…初めて行った教会で…そんなことは…そんなことは…できない
「みんな、何をしているの?パニック発作よ、さあ、どいて、どいて」
女性の声が聞こえて、私の頭を片手で持ち上げ、私の口に紙袋があてがわれた。
「さあ、息をゆっくり吐いて」
注:現在では、パニック発作の時、紙袋をあてがって呼吸することは、酸素が減りすぎ、二酸化炭素が増えすぎてしまうので推奨されていません