翌週、教会に行くと、みんなの私を見る目はいつもと変わらなかったが、牧師は冷ややかだった。
礼拝が終わると、牧師はつかつかと私のところにやってきた。
「神崎兄弟、ちょっと話があるから後で牧師室へ」
牧師は小声でそう言ったが、周りの人は耳をそば立てていたのか、私の方を一斉に見つめた。
私は呆然と立ちすくんでいた。
どんな話があるというのだろう。先週のことを思うといい話とは思えなかった。
皆はテーブルにいつものように座っている。私も座らないわけにはいかない。
ひとりひとりの前には、この教会自慢のカレーライスが盛られている。婦人会の姉妹たちが手ずから調理してくれたものだ。
牧師が祈りをし、みんなはカレーライスを食べ出した。
それぞれがなごやかに談笑している。
私の右隣には、20歳ぐらい年上の種崎兄弟が座って、美味しそうにカレーを頬張っている。
「元気がないね、神崎兄弟」
「ええ、まあ」
私は、食欲も感じられずに、スプーンにすくったひと匙をなかなか口に運べないでいる。
「牧師に呼び出されたから…だよね?」
私は顔を顰めた。けれど、牧師までの距離は遠く、私たちの話が聞こえることはないだろう。
「聞いていたんですか?」
「まあね、聞こえたという方が正確だけど」
「何を言われるかと思うと、気が重くて」
「大丈夫さ、年配の人たちはみんな君たちのことを応援しているし、神様だって、ほらそうだろ?」
「そうですね、そうだといいんですけど」
「ほら、食べた、食べた。食べないと力が出ないよ」
そう言いながら、私の背中を軽く叩く。私は何だか、泣いてしまいたいそんな気がしてならない。
急いでカレーをかきこんだ。
そして、顔を上げると、牧師が私に目配せし、右手の人差し指で牧師室の方を指した。
私はおずおずと立ち上がり、礼拝堂の脇の牧師室に行った。
ノックすると「どうぞ」という声がする。
私は勇気を出して扉を開けた。
牧師室の中は、夏だというのに何だか肌寒く、たくさんの本が、色々な日本語訳の聖書やら、各国語の聖書やら、ギリシャ語やヘブル語の原典やら、加えてこれまた数えきれないほどの聖書の註解書で床から天井まで埋め尽くされているせいか、カビ臭い。
奥にはテーブルがあって、牧師が職業的な微笑みを浮かべ、手を忙しなく揉み手しながら、座っている。さらに奥には、机が置いてあり、曇りガラスの窓がひとつついている。
促されて、私は手前の椅子をひいて、座った。
私が座ると、牧師の顔から笑みが消えた。
「やってくれましたね」