窓際の席で、それまで、藤堂さんと私が向かい合って座っていたが、席を移動して、彼女と私が隣り合って座って、彼女の向かい合わせに成島君、私の向かい合わせに田中君が座った。
ウェイターが来て、彼らは声を揃えてドリンクバーを注文して、それぞれが飲み物を取りに行った。
雰囲気で、彼らの様子が普通でないことは感じられた。私と藤堂さんは顔を見合わせた。
「大丈夫ですよ、大したことないですよ」
耳元で囁いたが、何だか声が力無いように感じてならなかった。
田中君と成島君はホットコーヒーを持って戻ると、飲み物に口をつけることもなく、しばらく押し黙っていた。
ここは日曜のランチもやっていて、ランチの時間にしては遅い時間なのに、ラストオーダーギリギリに注文して、2、3人の人たちが、フォークとナイフをガチャガチャ鳴らしているその音がやけに耳に響く。
こちらから声をかけようかと思った矢先に、田中君がおもむろに口を開いた。
「悪いんですが、もう僕たちは、カラオケの礼拝に参加することはできません」
「あっ、そうなんだ。でも、それは二人の自由だから」
私は何とか言葉を繰り出した。
「普通の福音派の礼拝をして欲しかったんです、聖書に沿った形の」
急に成島君が口を挟んできた。
「神様が全能の愛だなんて、はっきり言って異端じゃないですか!」
成島君は急に顔を赤くして言う。
「そうね、そうかも知れない」
私はその言葉に反論することはできずに、胸が、キリで刺し通されたタイヤのように、何かがヒューと抜けていくのを感じた。
「そんなことないんじゃない?」
先ほどの声と違う、力強い声で藤堂さんが言いかえす。
「違うって、聖書のどこにそんなことが書いてあるんだ?神は信じるものを天国に入れて、信じないものを地獄に落とす神だろ?」
成島君は、胸を張って言う。
「そんなの、神様じゃないわ。そんな裁判官みたいのが神様なら、私はそんな神様は信じないわ」
藤堂さんが言い切る。
「お前、この男に騙されているんじゃないの?こいつは、ちょっと鬱になって妄想気味になっているんだ。健常者じゃないから」
私は、自分が鞭で叩かれている気がする。
「あなたがそんなんだから、そんなんだから。あなたの言葉にどれだけ私が傷つけられてきたと思ってるの?」
藤堂さんもいきり立っている。
私は、冷や汗が流れてきて、心臓の動悸が激しくなってくる、このまま、またパニック発作を起こすのだろうか?
何とか自分をコントロールしようとして、ギリギリの瀬戸際にいた。
「まあ、まあ」
田中君がニヤニヤとした笑いを浮かべて言う。
「喧嘩するつもりはないんです、ただ、考えが違うからもう一緒に礼拝できないって言うだけで」
そう言って、田中君はさらにニヤニヤ笑いを浮かべた。