窓際の席から通りの方を見ると、もう日が暮れかかっているせいだろうか、人通りも少ない。わずかにいる人たちも足早に家路を急いでいるようだ。
「私は、もう限界だと思うんです」
岡田姉妹の声で私は視線をあわてて戻した。
「どういうこと?」
種崎兄弟が飲み干したコーヒーカップをテーブルに置いて、言った。
「先代の川辺先生には、私たちはお世話になりましたから、今まで我慢してきましたが、ここまで岩本先生の信仰から外れた路線、いや、はっきり言うと、正反対の路線を行こうとされると、もうついていけない、そんな感じではないでしょうか?」
「まあ、そうだね」
種崎兄弟がそう言うと、そこにいるみんなは、もちろん私も含めて頷いた。
「それで、考えがあるんです。岩本先生は何人もの弟子がいらっしゃいました。お弟子さんたちも教会を持ったりしておいでになります。ただ、今の牧師になってからは、交流はパタと途絶えていますが…」
「お弟子さんたちに頼ろうと?」
佐藤姉妹が言葉を挟んだ。
「ええ。今の現状をお弟子さんたちが知ったら、進んで手を差し伸べてくれると思うんです。幸いというべきか、今の教会の体制は、会衆制で、私たちひとりひとりが投票権を持っています。ですから…」
「牧師を解任して、お弟子さんたちの中から、岩本先生の信仰に沿った新しい牧師を迎えようというわけだね、ふーむ」
みんなも真剣な面持ちになった、1分、2分…と時間が過ぎた。私には永遠に感じられた。
「そうだね、それしかないかもしれない。牧師は私たちをユダのような裏切り者だと言うに違いないが、どっちにしろ、今のままでも同じことだ」
私は話を聞きながら、額に汗が吹き出すのを感じた。店内は寒いぐらいエアコンが効いているというのに。
『この話を牧師に伝えるべきか?』
『伝えたらどうなるんだろうか?』
『おそらく、岡田姉妹を始め、種崎兄弟も、ここにいる人たち全員は教会から追い出されるだろう、伝えた私自身を除いて』
『そんなことができるだろうか?』
『いや、できない。だとしたら、だとしたら』
数秒の間に、私の頭にはとめどない思考が駆け巡って、過熱していた。
「もっと、平和的な方法がありませんか?」
私はあえぐように声を絞った。
「残念ながら、ないよ、神崎兄弟。牧師が光さんにしたことを考えてもごらんよ」
そう言われると、私は言葉を失わざるを得なかった。
「臨時の教会総会を開くまで、このことはここにいる人たちだけにとどめたいと思います。その間に、私は岩本先生の弟子たちに相談したいと思いますので、秘密厳守でお願いします」
岡田姉妹が見たことのないぐらい、厳粛な面持ちでそう言った。