田中君が続けて言う。
「私たちがこのカラオケの礼拝をするって、提案したんですから、路線が違うのでこのカラオケ礼拝はお開きってことにしてくれませんか?」
「お開きって、私も続けてはならないっていう?」
私は心臓に痛みを感じながら、何とか蚊のなくような声を絞り出した。玉のような汗を額に書いているようだ。
「そうなりますねぇ」
「私は続けるわよ」
藤堂さんが声を上げる。
「続けるってこの男と?」
また、成島君がトーンを上げる。
「悪い?」
「お前はそんなことばかり言って。この男が好きなのか?」
「そんなことじゃないわよ」
藤堂さんは顔を真っ赤にして言う。
「そういうことだけじゃないんですよ」
田中君がまた妙に落ち着いた声で言う。
「神崎さん、わかっているんじゃないですか?」
「何を…です?」
心臓に針が刺されているようだ。
「あなたが過去に牧師に命じられて、どんなことをしていたのか、僕は知ってるんです」
「えっ」
「あなたはコウモリなのですよね?そうしてその罪を覆い隠すために、神は全能の愛だなんて、ちゃっかり言っているのですよね?」
再び、あの感じが強くなる。
『もう、だめだ』、そう思った瞬間に、左手に言いようもない温もりを感じて、押し止まる。
「田中君、何を言っているの?そんなこと、どうでもいいことよ、神崎さんが罪を犯していても犯していなくても、神様は全能の愛で、徹底的な赦しの神ならそんなこと関係ないわ」
「藤堂さん、あなたは完全に洗脳されたというわけですか?成島兄弟と私とあなたで、ずっと交わりを続けてきたのに、サタンにやられてしまったんですね」
「サタン呼ばわりとか、気持ち悪いわ。私には、おかしいのはそっちの方としか思えないわ」
いよいよ、強く、藤堂さんは私の手を握る。
私の額からは汗が滴り落ちる。
「まあ、いくら話しても無駄のようだな。サタンの側に行くと言うなら、それなりの報いが伴うことを覚えておくがいいよ。僕がこんなことをあえて言うのは、藤堂姉妹、あなたのことを思ってのことだよ。けれども、僕の忠告にも従うことをしないと言うなら、もう姉妹と呼ぶことはできない」
「それで結構よ」
「なあ、恵、お前、本当にどうしちゃったんだよ。こっちに戻って、また楽しくやろうよ」
急に成島君が猫撫で声を出した。
私は朧げな頭で、藤堂さんが恵という名前であることを初めて知った。
椅子をガタンという音をさせて、彼らが出て行った。
私は、全身の力が抜けて、テーブルに上半身を伏せた。
背中には温かい手が置かれていた。