「はい」
私は力なく返事をした。わざわざ聞かないでも何のことを言っているかは明白だ。
「神に油塗られたものに逆らうものは呪われると聖書で言われていると知っていますよね」
牧師の青白い顔がますます青白く見えた。気のせいか、口元に先ほどとは違う笑みが浮かんでいるようだった。
「そんなことも旧約聖書に書いてあったような…」
「ようなではない、書いてあるのです」
「はい」
ここはおとなしく時が過ぎるのを待とう。
「まあ、いい。だから、あなたたちは重大な罪をすでに犯しているわけです」
「はい」
私は牧師の圧に押されて、項垂れた。
「けれど、キリストの血と神の憐れみのゆえに、私はあなたたちを赦してあげます」
「ありがとうございます」
私はそういうしかなかった。
「あなたたちは結婚を前提に付き合っているのですよね?」
「はい、そうです」
「それであれば、この教会に受け入れてもらえるようにうまくやらないと」
一瞬、『この教会に』という言葉が『私に』と聞こえたのは気のせいだろうか?
「そうですね」
「だから、提案があるのです。いいですか?」
「はい」
「この教会では、特に年配の人たちが、先先代の牧師の、必ずしも聖書に沿ったものではない教えを信じ込んで、私のことをあまりよく思っていないことはご存知でしょう?」
「…」
「いいんですよ、もう誰が見てもわかることですから」
「はい、まあ」
「正直でよろしい」
牧師は歯を見せて笑ったが、本の黴臭い匂いが強くなるばかりだった。
「それで、あなたに仲介役になってほしいんです」
「仲介役?」
「そう、仲介役です。あなたもこの教会にもっとまとまってもらいたいと思うでしょう。そうしたら、何の心配もなく、光さんを教会に迎えられるでしょう?」
「まあ、確かにそれは」
「それなら、一石二鳥の提案でしょう、これは」
「一体、仲介役というのは何をすればいいんでしょう?」
「たいしたことではありません」
牧師の銀縁メガネのレンズが窓からの光を受けて鈍く光った。
「年輩の人たちが言っていることを、逐一、残りなく、私に知らせてもらうということです」
「えっ」
それって、スパイをしろというように聞こえた。
「ほら、神様の前では、何もかも露わにされて隠しおおせるものは何一つないと書いてあるでしょう。光によって露わにされた闇は光に変わるとも、書いてあります。
その神様のわざにあなたも加わるだけのことです」
「…」
「あなたに選択の余地はあるのでしょうか?」
牧師は、急に声を顰めて言った。
私は、引き受けざるを得なかった。