それから、私は、教会でまた帰りにお茶をしている時に、特に年輩のいった人たちの話していることを牧師に伝えた。
伝えながら、私は額から冷や汗が滴り落ちるのを止められなかった。
たぶん、私の顔も苦痛に歪んでいることだろう。
そんな私の顔を見ると、牧師はほくそ笑んで、上機嫌になった。
「なかなかいい仕事をしてくれていますね、その調子で頑張って」
私は牧師の首を絞めてしまいたいような怒りが自分の奥底の黄泉から立ち昇ってくるのを感じていた。
そんなことを続けているうちに、牧師は人前でも何かにつけ私の名前を出すようになった。
役員を決める時も、みんなで選ぶ役員の他に、牧師推薦の役員枠がひと枠ある。
牧師は、その役員枠に私を推薦したのだった。
教会の帰り道、いつものように、みんなは駅の近くのファミレスによってお茶をしていく。
青年は青年同士で帰りお茶を飲み、年輩の人は年輩の人同士でお茶を飲むが、どちらとも言えない私は、年輩のグループに加わることが多かった。
佐藤姉妹や岡田姉妹、種崎兄弟もそのグループにはいた。
「けれど、まあ、牧師が神崎兄弟を役員に推薦したのはびっくりしたよ。あんなことがあったのに、牧師も心を入れ替えたのかな」
種崎兄弟は、呑気そうに、ブレンドコーヒーを啜りながら言う。
店内は空いているというわけでもなく、混んでいるというわけでもない。
「しー、種崎兄弟。物騒なことを言わないでくださいよ。誰が聞いているかわからないんですから。しかし、確かに、牧師が神崎兄弟のことを目にかけるようになったのは事実ですよね」
佐藤姉妹が声をひそめて言う。
この店は、教会の人たちが頻繁に利用する、だから佐藤姉妹の懸念もあながちはずれてはいない。
「神崎兄弟、牧師先生と何かあったの?」
岡田姉妹は、私の方をまっすぐに見て、言う。他の人たちも、一斉の私の方を見つめる。
「いえ、何もありません。ただ…」
私は思わず、全てのことを言ってしまいたくなったが、それはできない。
「ただ?」
佐藤姉妹が、上品な顔立ちに少し怪訝そうな表情を浮かべて、私の言葉を繰り返す。
「ただ…牧師もこの教会の不一致をなんとかしたいと思っているらしいです」
嘘は言っていない。
「なんとかしたいって言ったって、不一致を作り出したのは牧師の方だろ」
種崎兄弟がちょっと語気を荒げて言う。
「まあ、まあ、種崎さん。できるものなら、私たちもそうしたいと思っていますよね?」
発言しなかった40過ぎの田中兄弟が言う。
「もちろん、そうしたいとは思っているが、牧師が先先代の信仰の路線を変えないでくれたらね、その他のことは譲歩できるんだがね」
種崎兄弟があっさり核心に触れたせいか、みんなは一様に推し黙った。