光は三重に帰っていった。
私は帰るべきところを失った気がしてならなかった。もちろん、自分の親のいる家はあったけれど、そこは私のホームではなかった。
もちろん、あんなことを言われて教会にのうのうと行くことはできなかった。
けれど、それだけではない。
胸の中に大きな穴が開いている気がする。大きな風穴が胸に開いて、ひゅうひゅうと空気が通り抜けているだけではない、血が一瞬ごとに吹き出している。
それが痛くてたまらない。そして、本当は、風穴が開いた胸のそこに私の帰るべきホームがあった気がする。
それが今はないのだ。
会社の机で、参考書や辞書を山のように積み上げて、教材を作成する、それが私の仕事だ。
ところが、10分とイスに座っていられない、前はそんなことはなかったというのに。
私は、イスから立ち上がってトイレに行く。そしてトイレの個室に閉じこもって、吹き出した血を浴びてガチガチに固まっている心と体をほぐそうとするが、どうにもならない。
そんなことを繰り返していると、当たり前のことだが、上司に言われる。
「中座する回数が多いよ。ちょっと気をつけてくれないか」
とても優しいと評判の上司にそう言われてしまえば、誰が見ても、自分が見ても、非は自分にあるしかない。
私は何とか机にしがみついていられるように、栄養ドリンクを買って飲んだ。
けれど、最初は、少しは効くように思えた栄養ドリンクも、途端に効かなくなってくる。
そうすると、飲む回数を増やし、1日に10本、それでも効かないので、より高価な栄養ドリンクへと。
私は栄養ドリンクの空き瓶を机に並べながら、脂汗をかきながら、机にしがみついていた。
そうしたところで、仕事そのものは全く進まない。
そうして、その日はやってきた。
家を出る、電車に乗って、会社のある駅に降りはするが、まるで、会社の建物の周囲に、私だけ寄せ付けないバリアが張られているように、何をどうやっても、会社に近づけない。
気を取り直し、心を落ち着けて、いったん、コンビニに逃げ込み、休んでからと思っても、そのバリアを破ることはできない。
そのうち、電車に乗ってもその駅に降りることもできなくなり、さらに、電車に乗れなくなり、また、家を出ることもできなくなり、ついには、朝、起きなければならない時間に起きることもできなくなっていった。
そうして、最初のうちこそ、上司に電話で休む連絡をしていたが、そのうち、電話が怖くてできなくなってメールで連絡するだけになり、さらには、メールさえも…