普通のプロテスタント福音派や聖霊派の教会は、十分の一献金のところが多い。十分の一とは全収入の十分の一ということだ、他にクリスマス献金やイースター献金などの特別献金もある。そんな献金や日曜学校での奉仕も含めれば、負担はかなりのものだ。若い人であれば更なる奉仕が期待され、年輩の人であれば更なる献金が期待される。
そうやって、教会はよく悪くも成り立って、運営している。
ところが、この教会は、十分の一献金がない。完全な自由献金だ。
皆が自主的に献金する。
それは、信徒にしてみれば負担が軽くていいことなのだが、とにもかくにも、牧師のメッセージの良し悪しや信徒への対応によって、献金の額が上下する。信徒は強くて、牧師は弱い立場になる。
『だから、献金の額が下がっているということは…』
そんなことは言わずもがな、信徒が牧師に対して不満を抱いているということだ。もちろん、教会員の人数も増えていないということもあるが。
ぼうっと聞いているうちに、綾瀬さんの会計報告は終わった。
日本語と英語で話しているので、もう1時間近く経っていた。
綾瀬さんがホッとした表情でイスに座り、代わりにまた、高木さんが立ち上がった。
「会計報告について質問がある人はいらっしゃいませんか?」
誰も手をあげるものはなかった。
「では続いて…」
そう言いかけたところで、牧師が手をあげた。
「私の方から、教会の方針についてお話ししたいことがあるのですが」
それまでの眠そうな雰囲気と打って変わって、空気にビリビリと電流が走るようだった。
誰もが大きく目を見開いて、牧師の方を見つめた。
「どうぞ、お話しください」
「はい、では。まず、個人的なことを話させてください」
「皆さん、ご存知の通り、私とヨシコの娘、ルツはダウン症を患っています。
そうして、先天性心疾患があります。
そのことについては、皆様に熱心に祈っていただき、本当に感謝しています。
しかし、半年前に検査したところ、この先天性心疾患が深刻なものであることがわかり、手術を考えたのですが、手術ができない難しいものであることが判明しました。
このままだと、余命は1年あるかないかということです。
医学的にはどうしようもなく、ただただ、神様の奇跡を待ち望むしかありません。
私たちは、愛するルツの親として、できることは何でもしてあげたいのです。
それで、私たちは、神戸のある教会の癒しの聖会に参加しました」
「神戸の…あれか」
誰かが吐き捨てるようにそう言う言葉が聞こえた。