「そうして、主管(神戸のその教会ではトップをそう呼ぶ)に直接、ルツに手を置いて祈っていただきました。
完治したわけではありませんが、その後、明らかに、娘のルツの病状は好転しています。
主管には、続けて祈りを受けることと、神の奇跡を信じる信仰を持つことを勧められました。
それで、皆様には申し訳ありませんが、今までの教会の在り方から路線を変えて、この奇跡を信じる信仰を進めていきたいと思っているのです。
できれば、愛する皆さんにも、この路線についてきてくださって欲しいのです」
…
重苦しい沈黙が流れた。
口火を切ったのは、高木さんだった。
「司会から口を挟むのはどうかと思いますが、そうなると、このオアシス・クリスチャンフェローシップはアメリカの⚪︎⚪︎チャーチの流れから脱退することになるのでしょうか?」
「当然、そういうことになります」
牧師は特に表情は変えずに言った。
「うーん。それは…」
高木さんはそれきり押し黙ってしまった。
「先生、騙されているんじゃないの?」
先ほど、『神戸の…あれか』と言ったその声が聞こえた。その主の方を見ると、40過ぎの日焼けしていかにも健康そうな、アロハシャツを着た男性だった。
「あの教会はカルトって言われているのは知ってますよね、はっきり言って、先生がそんなカルトの信仰を進めようなんて、まともだと思えないんですよ。何か洗脳されたんじゃないかと」
「いや、そういうことは一切ないです」
「最近、今までのゴスペルソングに代わって、何だか気持ち悪い曲がセレブレーションで使われていますよね、あれもあそこの歌ですよね。
はっきり言って気持ち悪いです。私はついていけません、そんなカルト路線をとるなら、私はこの教会を辞めます」
その男性がはっきりそう言うと、今まで黙っていたその他お大勢の人たち、日本人も外国人もいっせいに意見を言い始めた。
一部の20代の若い人たちを除けば、ほとんどすべて否定的な意見だった。
中には、『この教会に騙された』という意見さえあった。
心臓が早鐘のように打ち、汗が額から流れてくる。
そこにいる人たちの言葉を聞いていると、そうではないことが頭ではわかっているのに、まるで自分に向けられているような気がしてならない。
関係のない自分が総会に出てしまったことを後悔した。
けれど、このまま出ていくことも、怖くて怖くて怖くてできない。
壁の花、いや、壁に押しつぶされている虫のように、胸が割れるように、心臓が真っ二つに裂けているように痛む。
その痛みが私の理性を失わせたのか、私はあろうことか、手をあげてしまった。