無意識さんとともに

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黎明〜鬱からの回復 3 嫉妬

私が指名された瞬間、光は思い切り、私に肘を食らわした。

「痛い、何をするんだよ」

思わず、声をあげていた。

「ともちゃん(智昭だからそう呼ばれていた)ばかり!」

それだけのやり取りだったが、気がつくと、周りの人たちに注目されている。

ほとんどの人は穏やかに私たちを見守っていたが、中にはあからさまに嫌な顔をしている人もいた。

「どうぞ、彼女と一緒に壇上におあがりください、神様はおふたりとも招いておられますから」

有名講師はニコニコ笑いながら、そう言う。

そう言われて、いくつかのねっとりとした嫌な視線を振り切って、光と一緒に壇上に上がり、頭に手を置いて祈ってもらった。

私はなんと言うこともなかったが、光は祈りを受けると、顔を輝かせ、両手を天にあげ、異言を高らかに語り出した。

その様子に絆されたのかどうか、講師は光に尋ねる。

「神様からの恵みを受けていらっしゃいますね」

「はい、将来は神様の御言葉を伝える伝道師になろうと思っています」

集会が終わると、各自はホテルの部屋に戻る。

光は私たちのグループの女性と同じ部屋に、私は男性と同じ二人部屋に。

部屋には、種崎兄弟(私たちの宗教ではお互いのことを、〇〇兄弟、〇〇姉妹と呼んだ)がもう座って、コーヒーを淹れて飲んでいた。

私にもコーヒーを勧めながら、笑う。

「まだ結婚もしていないのに、皆の前で夫婦喧嘩か。仲のいいことだね」

言葉に毒は感じられない。

「ええ、そうですね。ただ、光はなかなか、神様の恵みのことになると嫉妬深くて」

光の家は、親も兄弟も親戚も全部、クリスチャンだった。

光自身は、三重の教会で賛美リーダー(教会でみんなの賛美を導くリーダー)を務め、本人の言った通り、将来は伝道師になろうとしている。

いわば、生え抜きのクリスチャンで、私のように、二十歳を過ぎてから教会に行って洗礼を受けた人間とは違う。

本人もそれを自覚していた。

けれど、時々、東京の私の通う教会や聖会に出ると、どうしても私が目立ってしまって、そのたびごとに嫉妬の発作を起こしていた。

彼女と知り合ったのは、とあるキリスト教掲示板だった。

その時、私は色々な問題で困っていた。そのことを牧師や周囲の人に相談しても埒が明かなかった。

それで思わず、その掲示板に書き込んだ。

『私の悩みのためにお祈りしていただける方、いらっしゃいますか?』と。

そんな書き込みをしても返事が来ることは予想していなかった。案の定、2、3日しても何の返事もなかったので、私はすっかり、自分の書き込みのことを忘れてしまっていた。