無意識さんとともに

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夏涼み〜永遠の今

目の前に、なだらかに、しかし、延々と続く緑色に苔むした石階段と、
 
折り重なっていく赤い鳥居が見える
 
 
 
「上までのぼったら、たしかお茶屋があるはず」
 
あなたは自分の小さな、消え入りそうな独り言にはっとする
 
 
 
靴の底に、石の感触を感じながら
 
 
 
暑い日差しに、足元から陽炎が立ち昇る
 
 
 
どこからか、聞こえる風鈴の音色
 
ひとつだけではない、幾つもの風鈴の音が何重にも響き合って、清流のように、鼓膜に注がれる
 
 
 
いつのまにか、歩き続けるその身体のかすかに揺れるリズムを感じているかもしれない
 
 
 
汗を軽く拭いながら、顔を上げると、
 
登ったところの右手に、赤いのぼりを立てた茶屋が目に入ってくる
 
 
 
『もうすぐだ、もうすぐ』
 
そう思うと、階段を登る足に力が入り、わずかに吸う息吐く息の音の間隔が狭まっているようだ
 
 
 
心臓も呼吸に合わせて脈打つのを感じながら
 
 
 
最後の階段に足をかけた後
 
あなたは一目散に茶屋に入る
 
 
 
三組の木製のテーブルとイスがあるだけのこじんまりとした様子
 
 
 
時折、奥から聞こえてくる柔らかな感じの、京都弁だろうか、その声以外、何もしない
 
 
 
「ごめんください」
 
 
 
あなたは、とりあえず、年季の入ったように思われる、でも丁寧に磨かれたイスのひとつに腰かける
 
 
 
疲れた身体をイスに預けて、その感触を味わいながら、ほっと一息をつく
 
 
 
奥から着物を着た中年の女性が出てきて
 
あなたをまあるい瞳で見つめると、
 
 
 
「おこしやす」と言う
 
 
 
その言葉が何気に心地よくて、
 
「冷抹茶を」と微笑みながら答える
 
 
 
しばらくして
 
目に鮮やかな緑色の冷抹茶が、青磁の茶碗に入れられて、
 
テーブルの上にそっと置かれる
 
 
 
ひと口飲もうと持ち上げると、
 
抹茶の中の透明な硬い氷がぶつかり合って、音を立てる
 
 
 
何だかさっき聞いた風鈴の音と重なるようだ
 
 
 
渇いた喉を冷たいお茶が浸していく感じに我を忘れていると、
 
茶碗のそばに置かれた、これも青磁の小ぶりの皿に置かれた、小さな白い饅頭に気づく
 
 
 
きめ細かく、しっとりとした白い饅頭が
 
薄紙の中に大切に納められていて
 
皿の青い海に、ちょこんと置かれている
 
 
 
何だかそれにみとれてしまっていると、
 
 
 
壁にかかった振り子時計が声をあげる
 
 
 
そして、
 
『奇跡』とこだまする
 
心に
 
 
注)この文章は臨床催眠の練習のお相手が出されたメタファーを含んでいます。ブログに書くことを許可してくださいました。ありがとうございました。