無意識さんとともに

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足跡〜無の世界で

目を覚ますと、窓の外は真っ白な世界だった

 

私は白い世界に魅せられて、外に出た

 

鈍色の空から降りしきる雪の結晶、

みしっみしっみしっと自分の靴が降り積もった雪の中に沈み込む音だけが聞こえる

 

蒸気機関車のように口から吐き出される息に続いて、

肺に入ってくる空気の透明さを感じていた

 

何も見えず、自分の周りしか見えない世界、

この世界ではただただ自分の足がザッザッザッと進むことに心を傾けるしかないようだ

雪が体温で溶けるその冷たさを身に感じていた

 

この無の世界に目が慣れてくると、ところどころ、雪から突き出たものが目に入ってくる

 

どうやら、雪に埋もれた木のようだ

雪に埋もれながら、枝の先端を変わらず天に向けてまるで祈っているようだ

 

雪が吹雪いてきて、雪の結晶同士がぶつかり合う音さえ聞こえる

 

自分の心臓が燃える釜のように盛んに血液を全身に送り出している

 

急に、一瞬、空が明るく光ったような気がした

 

どこかで、チャリンと軽やかな鈴の音がしたようだ

 

頬に吹きつける雪が暖かみを帯びている

 

気がつくと、目の前の足元に雪割草がつぼみをつけている

 

チッチッチとどこかで鳥の鳴いている声

 

何か、心をときめかす香りが鼻をくすぐる

 

見上げると、吹きすさぶ雪が微かなピンクに染まっている

 

どういうことだろうか

 

チャリンチャリンと鈴の音は前よりもはっきり聞こえて

雪に手を伸ばして取ってみると、

桜の花びらが手のひらの中にある

 

季節はめぐり

そして二度目の春に

心模様は変わりゆくが、その中を歩み続けるだけだ

 

ふと後ろを振り返ると、

雪の上に、二組の足跡が、

また一組の足跡が