B1C
その後、ある夢を見た。
鬱蒼と生い茂った深い森にいた。薄暗く時折聞こえる鳥の囀り以外は、自分の呼吸の音しか聞こえない。足の裏に地面に這い出した木の根を感じながら、道を探していた。
薄暗闇の向こうの方にぼんやりと光が見えて、導かれるようにそちらの方にひかれて行った。すると、せせらぎの音が聞こえてきて、気がつくと足の踵を浸すぐらいの水が流れていた。
とにかく、光の方に歩みを進めると、光はだんだんはっきりと明るさを増してきた。せせらぎの音もはっきり聞こえてきて、流れる水のかさは膝ぐらいまでになった。
ちょっと躊躇ったが、『進むしかない』と思い、ざっざっざっと川の中を突き進んでいく。かさは腰ぐらいまで達していた。
光はこれ以上ないぐらいまで鮮やかになって、森の出口に来ていた。向こうには、緑色に苔むした泉があって、水がとめどなく溢れてその音が静けさの中でこだましていた。
『あの泉から溢れる水が川となって流れているのか、それにしてもこの水かさは…』
出口を出ると、泉があり、脇に白い衣を来た人が立っているのに気がついた。その人は、ただただ私をまっすぐに見つめていた。
瞳はそこが知られないほど澄んでいて、私の姿が映っていた。けれども、その姿は私ではありながら、この自分とは違う誰かのような気がしてならなかった。
その人は、泉から手のひらに水を汲むと、私に飲ませた。水は冷たく、心と体の奥深くまで染み通っていくように思われた。
『あの水を飲むものは誰でもまた渇く、しかし、この水を飲むものは心のうちで泉となり、尽きることのない水が湧き出だすだろう』
言葉を耳の外と内で聞いたような気がした。