無意識さんとともに

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AとBとC 第二十二回〜N

B1

 

回心の後、数週間は夢見心地の状態が続いた。

母に対する怒りももはや感じず、性欲もなくなり、ふわふわとして、自分が本当にまるで天使のようになったようだった。

『これで全てが終わった、解放された』と思った。

 

そんなある日、家の近くの坂道を上ったところで、中学時代の同級生Nに会った。彼はニヒルでシニカルな男だった。少林寺拳法をやっており、中学の時は、階段の踊り場で空手のまねごとをやってふざけあったものだ。けれど、彼の横蹴りは私のような素人のものではなく、私は彼の蹴りを受けて腕にあざを作っていた。

 

久しぶりにあったNに、私は自分が教会に行っていること、回心体験をしてクリスチャンになったことを夢中で語った。

 

Nは黙って聞いていたが、ひととおり話が終わると、醒めた笑いを浮かべて、言った。

「それで、君は自分も含めた世の中のすべてが割り切れて解決したように思っているんだな」

 

その言葉は私に冷たい水をぶっかけるような気がしてならなかった。

そして、中学時代のことが思い浮かんだ。

 

その日、部屋に、Nとあと数人の男が遊びに来ていた。私たちは、花札をしていた。もちろん、お金をかけてはいなかったが、ひとりひとりの点数表をつけていた。

私はずっと負けていて、その点数表のびりだった。

 

急に、SとIが戯れあって、おふざけで男同士で抱き合ってキスし始めた。

 

自分はそれが嫌だったのか、それとも花札の負けがこんでい流のがこたえていたのかわからない。

ぷいっと靴下のまま、庭に飛び出し、「おいっ、どうした?」というNの声を無視して、さらに庭のフェンスを越えて、家の前の林に駆け出した。

 

後ろから、「戻ってこいよ」というのが、耳の中にかすかにこだましたが、ずんずんと林の中を進み、木の下でうずくまった。

 

『たぶん、あれは自己愛性パーソナリティ障害の発作だったのかも知れない』

 

Nの言葉と冷笑でそんなことを思い出したが、自分はもうそんなことから解放されてしまったのだと思った。

 

しかし、そんなわけにはいかなかった。