無意識さんとともに

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すべてはあなたの物語

目の前にあるのは、大きな白いスクリーン

まだそこには何も写っていない

ここは古い映画館

床はギシギシ音がする

なのに座っている椅子は心地よくてすっぽり包み込んでくれる

あたりを見回すと、観客はまばら

そのせいか何だか呼吸が楽にできる

静かで自分の吸う息、吐く息の音さえ耳に届くようだ

古びた木のいい匂いが鼻をかすめる

急に目の前が暗くなって、上映が始まるようだ

画面に光の粒子が散らばって、映像を映し出す

小さな音、大きな音、低い音、高い音、色々な音が鼓膜を振動させる

呼吸がちょっと速くなっている気がする

物語の出だしはゆっくりしたペース

あれっ、不思議なことに自分そっくりの主人公

これってどう言うことと思っている暇もなく

物語はペースを上げて、いろいろな出来事に巻き込まれていく

うれしいこと、悲しいこと、幸せなこと、不幸なこと、楽しいこと、怖いこと、

絵巻物のようにありとあらゆることを画面に繰り広げるが、

物語の中の自分はそれらのことに舞い踊る

次から次へと新しいステップで

初めの頃こそ、自分がこの映画を席に座って見ていることが心の片隅にあったが、

今やそんなことも忘れて、迫真の演技を続ける

それぞれの役になりきって

この人生の物語は、喜劇、悲劇、ハッピーエンド、バッドエンド、ホラー

どんなものもお茶の子さいさい

心の底から吹き抜ける風に乗って軽やかに踊り続ける

そして、序盤から山場へと、山場から終わりへと踊り続け

最後の最後にスタンディングオヴェーション

拍手と喝采を浴びて、画面の中でお辞儀をする

顔を上げると、客席に自分が座っているのに気づく

『ああ、自分が演技をしていただけなのね』

そう思って、客席の自分は目を瞬かせる

『これが自分の物語だったのね』

席を立とうとすると、

「本日の映画は二本立てです」というアナウンスが流れ

あらためて席に座る

再び、スクリーンに没頭して見れば、今度はさっきとは全然違う物語

『どんな物語を選ぶかは、あなたのお好みしだい』

そんな声が心をこだまする

映画が終わると、そそくさと立ち上がるもの、余韻を楽しむもの、少ないながらもいろいろ

しばらくして席を離れて出口に向かう

外は太陽が輝いており、まぶしく目が一瞬見えなくなる

そのうち、目が慣れて、

先ほど見た映画の内容も忘れて歩き出す

道もなければ信号もない明るい明るい光の中を

コツコツと

アスファルトに靴の音を響かせて

『どこに向かうかも、あなたのお好みしだい』

計画も目的地も定めずに歩み出す

口元に少し笑みを浮かべながら