私はどんな人でも救うという仙人のことを聞きつけた。
それで、私は、山を越え、海を渡り、森林に分け入り、仙人を探し求めた。
その甲斐があったのかなかったのか、仙人が住む砂漠を見つけ当てた。
砂漠の中に、小屋がポツンと一軒建っている。
あれが仙人が住む小屋に違いないと、私は思った。
ところが、あろうことか、近づこうとすればするほど、小屋は遠ざかっていく。
私は疲れ果て、歩みを止めたが、小屋は近づいてはくれない。
この理不尽に怒ってみたが、小屋との距離は変わらない。
ついに、私は諦めて、半ば投げやりになって元来た道をとぼとぼと引き返した。
すると、あろうことか、小屋はどんどんと近づき、いつの間にやら、小屋は目の前にあった。
けれど、遠くで見たよりも、みすぼらしいオンボロの小屋、こんなところに誰でも救う仙人がいるのか疑った。
しかし、せっかくここまで来たのだと、残る力を振り絞って、小屋の戸を叩いた。
「誰じゃな、こんな真っ昼間に戸を叩くのは?」
真っ白なひげを生やした、けれど、小屋よりもさらに粗末な服を着た老人が現れた。
上から下までじっと見てみたが、どこからどう見ても、あの仙人とは思われない。
「このあたりに、どんな人でも救う仙人がいると聞いてはるばるやってきたのですが」
「人を救う仙人、そんな御仁がいるとは聞いたこともないが、いるなら会ってみたいものじゃのう」
老人は愉快そうに笑う。
「ところで、その仙人に会っておぬしは何を望もうと言うんじゃ?」
「私は、人を救う力を得て、多くの人を救いたいのです」
老人はこちらがたじろぐほどに、私の瞳を見て言う。
「なるほどな、殊勝な心がけじゃ」
そうして、何を思ったのか、さもおかしくてたまらないように笑う。その様子を見ていると、私は自分が侮辱されたように感じる。
さらに、老人の笑いは止めどなく、勢いを増してさえくる。
それを見ていると、だんだん何もかも馬鹿馬鹿しくなってくる、ここまでやってきたことも、自分さえも。
そのうちに、伝染したのかどうか、思わず、自分の口からも笑いが込み上げてくる。
『何だ、これは?』と思っているうちに、まるで、地面をボーリングしていて溢れてくる井戸のように、新鮮な笑いが腹の底からどんどん湧き出てきて止まらなくなる。
「そうじゃ、そうじゃ、その調子じゃ」
笑いが固い岩盤を砕いて、さらにどんどんと湧き上がる。
「そうじゃ、笑いだけが人を救うのじゃ」
どこまでも広がる雲ひとつない真っ青な空のもと、真っ白な砂漠にただこんこんと水が湧き上がり、川となって流れるばかり。